2次安倍内閣の戦略的国家運営
―従前の中韓との友好関係の見直しが国家安定へと導く―
理事・政治評論家  屋山太郎 
 

 日本の政治の潮流が大きく変わろうとしている。先の総選挙で民主党が惨敗したきっかけは、鳩山由紀夫首相(当時)が日米同盟という外交の基軸をはずしたからだ。その後の世論調査を見ると「中国嫌い」が8割、「韓国嫌い」が6割を示している。尖閣諸島、竹島をめぐる中・韓の動きに日本人は嫌悪感を持っている。この嫌悪感の底には日本人が備えている正直さ、潔さ、イカサマを嫌う精神を相手がまるで持っていないという侮蔑感がある。国家同士が中・韓と価値を共有して友好関係を取り戻すことはほぼ永久にないだろう。
 自民党の古手は中・韓との友好に長年取り組んできたが、今、中国からお呼びがかかるのは山崎拓氏、古賀誠氏、河野洋平氏といった親中派の面々ばかり。すでに自民党内に影響力を持たなくなっているから、中国の“選別外交”は無駄だろう。
 親中派の退潮とともに台頭してきたのは純粋保守派で、彼等が改憲論や国軍の創設などを唱えている。みんなの党に続いて橋下徹大阪市長を旗頭に急速に伸長してきたのは日本維新の会で両党の主張は新しい日本の統治機構をつくり変えようということである。一院制や首相公選論を掲げて憲法改正を唱えている。地方分権、道州制については安倍首相自身も賛同している。安倍氏は
@憲法96条の改正 A地方公務員法の改正 B国家公務員法の改正を念頭に置いているといわれる。
 第2次安倍内閣が順調に行っているのは課題を一挙にテーブルに並べるのではなく、「一点課題解決型」に改めたからだと言われている。政局や時代の流れ、支持率を見ながら、頃合いをはかって主題を一点に絞って出し、解決を訴える。
 TPPは正に支持率が上がった時点で出してきて、一挙に党内の了承を得た。
 閣内でも国家公務員制度改革については麻生太郎・副総理兼財務相も賛成ではない。地方分権については党内の半分ほどが反対だが、首相は維新、みんな、民主党は賛成だ。党外の勢力の応援も得て道州制を乗り切りたいと思っている。その時、党内を説得するのは「改憲に賛成を得るために、道州制や公務員制度改革に賛成しろ」といった操縦法だろう。
 本来、こういう公務員制度にかかわる機構改革は長期政権にしかできない。中曽根康弘氏は5年かかって国鉄の分割、民営化をやった。小泉純一郎氏は6年かかって郵政を民営化した。だが官僚本体の組織は全て温存されている。
 外交では中国との関係について頭を下げて友好を願う姿勢はとらない。経済の大勢は中国抜きでも成り立つ方向に流れるだろう。ASEAN各国は基本的には親日的であり、反面中国を怖れている。
 安倍氏が唱える戦略的互恵関係とは、今、韓国にとって不可欠の自動車エンジンを輸出しないというようなことではない。韓国はそのうち財政が行き詰まる。中国は水と汚染で困窮する。そういう時、請われれば、いつでも助けに出て行くということだ。


                                                                                                                        (平成25年4月24日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
 Ø 掲載年別  
2014年の『論壇』

2013年の『論壇』

2012年の『論壇』

2011年の『論壇』
 

ホームへ戻る