中国を見る二つの見方がある。
先日楊中美氏(横浜市大・法政大講師)の「習近平時代で中国経済と対日政策はどうなるか」と題する内輪の講演を聞いた。この人は江沢民、胡耀邦といった歴代首脳についての著書があり、政権中枢に通じた人物ということだった。当然、中国政府筋の人という認識はあったが、逆に中枢がそういうことを考えているのかと知って改めて愕然とした。
楊氏によると「経済的発展戦略」で成長速度は7.5%以上で2025年にはGDPは米国を超える。「軍事的発展戦略」では2025年には戦力において米国と対等になる。海軍と空軍に重点投資して太平洋は米国と半分ずつ管理する。尖閣問題で米国が日本と共に動くことはあり得ない。持久戦の段階に突入したが軍事介入はない。一方で日本は環境問題でビジネスチャンスになる。東アジア諸国(日中韓とASEANの13ヵ国)は経済共同体となって通貨は人民元と日円で「亜元」となる。
以上は政権が頭に描く理想的な構図だろう。その発想の根底に周辺国を吞み込んできた中国のDNAが組み込まれているようだ。圧迫を受けた日本が頼まれもしないのに、環境ビジネスに喜んで参加するわけがないが、「日本は儲けるだけで十分だろう」と言わんばかりである。軍事力で米国と太平洋の覇権を分かつところまで構図は描けているという厚かましさにカッとなって、いくつかの質問をしてみた。
そもそも7.5%の成長率をあと13年も維持できるのかということと、米国が中国の膨張を待つのかの2点だが、楊氏の答えは軍事も経済も「大国ほど積算通りに行く」というものだった。
オバマ政権は2011年にピボット政策を打ち出した。軍事的な軸足(ピボット)を中東・東アジアから「アジア・太平洋」に動かし、米中間の力の均衡を再調整することで、「リバランス政策」とも呼ばれている。しかし中東に足を取られ続けると、軍事的重心は中国有利に傾いて行く。一度、中国寄りに傾いた時、中国は世界覇権に向って突進するというのが中国4000年の歴史である。日本は米側の引力が弱くなればなるほど、かつての朝鮮半島のように中国の属国になり兼ねない。米国が弱まった分の軍事力を補強するのが日本の安全保障には不可欠だ。
一方、中国を見る別の見方がある。
5月1日のウォール・ストリート・ジャーナル紙に「中国はもはや世界の工場ではない」という記事が出ている。日本型の経済発展は、縫製工場などは労賃の安い中国に工場を移すという考え方だ。ところがWSJの記事によると、中国内の賃金高騰で中国の工場をベトナムやインドに移しているというのだ。すると中国に残るべき「高度化した産業」が存在するのか。5年以内に中国は「水問題」と「汚職」で潰れるという見方もある。
(平成25年5月8日付静岡新聞『論壇』より転載)
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