15年間にわたって縮こまっていた日本経済は「アベノミクス」によって、一気に気分転換し、まず製造業が息を吹き返したように見える。しかし安倍晋三首相が目指しているのは、そういうケチな景気回復ではない。異業種の技術と企業をダイナミックに融合して新しい産業を創り出す壮大な構想である。日本製品の品質の良さは世界が認めるところだ。それは日本人の武士道精神がモノ作りに生かされているからだ。モノと心の融合を図るチャンスと場を与えれば、おいそれと他国に真似できるものではない。鉄道や原発をシステムごと輸出し、運用方法を叩き込む。インドの地下鉄は日本が建設したもので、インド中で最も正確に動いている機械だそうだ。
国家経営の大転換は首相が死ぬ気になって進めなければ成し遂げられるものではない。アベノミクスは三つの矢で成るという。第1の矢の「異次元の金融緩和」は想像を絶する驚異的な効果をもたらした。第2の矢の財政政策もじっくり効いてくるはずだ。最重要なのは第3の矢の成長戦略だが、この成否は古い制度や成長を妨げる規制をどの程度変えられるか、あるいは廃止できるかにかかっている。安倍首相の政治力にかかっている。
一方で安倍首相は外交姿勢も転換し、日本を新しい環境に置かなければならない。これまで中国や韓国に言及してどのくらいの閣僚が辞任させられたか。
中曽根内閣の文部大臣だった藤尾正行氏は雑誌「文芸春秋」(86年10月号)で「韓国併合は合意の上で形成されたもので、日本だけではなく韓国側にも責任がある」と述べた。中曽根首相に辞任を迫られたが、藤尾氏は「私は間違っていない」と拒否。この結果、中曽根氏は藤尾氏を罷免した。
95年11月、村山内閣の総務庁長官になった江藤隆美氏はオフレコの記者懇談で「植民地時代には日本は悪いこともしたが良いこともした」と述べて辞任に追い込まれた。韓国併合自体は向こうから見れば異民族に支配されるのだから愉快であるはずはない。しかし「併合」は「植民地」と違って日本人と同等の地位を与えるものだ。当時(南北)朝鮮の小学校は数百しかなかったが、終戦までに日本は5200の小学校を建てた。それに先立って朝鮮、台湾に帝国大学を設立した。朝鮮の識字率は4%だったが、終戦前年には61%に向上した。経済成長は年率4%を確保した。
藤尾氏も江藤氏も辞めさせなければ、国会は全く動かない状況に立たされた。こういう政治状況下で、マスコミが真実を書かず、政治家叩きをすれば、真実を語る政治家はいなくなる。言論の府も押し黙る。慰安婦問題などが「性奴隷」(セックス・スレイブ)と表現されていること自体、全く事実と異なる。中韓両国は国際戦略として歴史認識を持ち出して宣伝した。米国の日本認識も極めて歪んだものとなっている。日本叩きは止まないのだから安倍外交は“脱中華”で行くしかない。
(平成25年5月15日付静岡新聞『論壇』より転載)
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