安倍政権で完遂せよ
―口先だけに終った民主党公約「官僚天下り人事」根絶―


理事・政治評論家  屋山太郎 
 

 「天下り根絶」を掲げた民主党政権が崩壊した第一の原因は、民主党が天下り先ひとつ潰すことなく消費税の増税に走ったことである。そのあとを襲った安倍政権は「天下り根絶」という国民の願望が依然として存在していることを強く認識すべきだ。国会終盤になって稲田朋美公務員制度改革担当大臣に法案の具体化が指示された。しかしその中身は極めて曖昧で、6年前の安倍政権で甘利明行革担当相が国会に提出したものより質的に、全く劣っている。
 天下り根絶といってもキャリア官僚の天下り先を即潰せば、ことが済むというようなものではない。次官級、局長級、審議官級とキャリアが上がっていくたびに、同期のキャリアを放出しなければならない。天下りポストはキャリア組の人事異動にとって不可欠なものなのだ。
 そこで第一次安倍政権では、全員が定年まで勤務できるが、幹部約600人については降格、減給もある形を考えてきた。この600人について、当時の甘利行革担当相は内閣に「内閣人事局」を設置して、総務省や人事院の人事権を移管するとした。同法案は麻生内閣の解散によって廃案となったが、内容について麻生氏は「官僚バッシングのようだ」として不満のようだった。
 民主党政権は官僚の抵抗によって「内閣人事局」は設置するものの、人事権の移管は無い、形ばかりのものに堕した。野党の自民党とみんなの党が合同で出したものは財務省の人事に関する権限をも内閣人事局に移すというものだった。
 600人の人事管理を内閣府で行う根拠は「局あって省なし」「省あって国なし」のキャリア官僚の評価を第三者がやれば、600人は常に「国のため」を考えるようになるとの発想だった。当時、農水局長で明らかに失政をした者が次官になったケースがある。「省あって国なし」の姿勢でも咎められないとなれば、皆が自省の次官を手本とするだろう。
 しかし大方の官僚は第三者が人事評価をすること自体を不安だとみる。また政治家も天下り先を創り出すことには反対でも、官僚全体を捉えてバッシングするのは好ましくないと考える。
 米国などでは官僚が所管の業界に天下ることは固く禁じられている。欧州でも民間会社に官僚が天下る例を見たことがない。
 ピラミッド型のキャリア人事を長方形に直さない限り、天下り先を消滅させることはできない。大阪府、大阪市は橋下徹氏の方針で、300万円以上の補助金を出している法人には一切、天下りを禁止することにしたところ、府、市に各70程度あった天下り法人はほぼ半減した。
 しかし稲田担当相の下で纏めつつある公務員制度改革は、天下り先を潰すことと無関係に、幹部公務員の「特別降任」を認めるといった問題に矮小化されているようだ。

                                                                                                                        (平成25年6月19日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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