安倍晋三首相は新しい法制局長官に外務省の小松一郎駐仏大使を充てる人事を決定した。これによって日本国憲法が抱えてきた牽強付会な解釈はすっきりするだろう。日本国憲法について旧社会党などは「非武装・中立論」の論拠としてきた。しかし丸腰ではソ連や中国が攻めてきたら「お手あげしかない」ということで、のちに自然権としての「自衛権」はあるとの解釈になった。だが世界中を見ても自国一国だけで自衛権を全うできる国はほとんどない。そこで「日米安全保障条約を結ぶ権利はある」とした。では日本防衛のための米軍が攻撃された場合はどうするか。歴代法制局長官によると「集団的自衛権を結ぶ権利はあるが行使はできない」という。米艦と自衛艦が並走している時に米艦に向けた攻撃なら知らんぷりしろというのでは、日米同盟関係は終りである。グァムの米軍基地は日本防衛のためにも重要な基地だ。そこに北朝鮮から飛んでいくミサイルを日本が見過ごしたらどうなるか。
「権利はあるが行使はできない」という翻訳を各国の法律家で理解するものはいないだろう。そこで6年前の第1次安倍内閣で安倍氏は「安保法制懇」(安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会=座長柳井俊二・元駐米大使)に検討を依頼した経緯がある。法制懇の結論は4つのケースについて可とするものだったが、後任の福田康夫首相は握りつぶした。
小松氏はこの法制懇の裏方として関わり、国際法の著書もある人物で、内閣法制局の見解が大幅にすっきり変わる可能性がある。
内閣法制局の存在は中曽根康弘政権の時代から問題視されていた。そもそも内閣法制局は行政府のかかわる法体系を調整し、首尾一貫させる役割をもっていた。明治憲法による官僚内閣制の守護神のような存在だった。しかし敗戦によって明治憲法が廃止され新憲法が1947年に施行された。官僚内閣制から議員内閣制に大転換したわけだから、内閣法制局も当然廃止された。しかし官僚達は憲法からはずされた「政府委員」を国会法の中にもぐり込ませて答弁権を確保し、何の規定もない各省の事務次官会議を続行し、52年には内閣法制局を設置、官僚内閣制を秘かに復活させたのである。表向きは議員内閣制に転換したように見えるが、実態は官僚内閣制そのものだ。
民主党の台頭によって、政府委員の国会答弁が禁じられ、事務次官会議も廃止された。法制局長官が憲法解釈の全権を握る姿も異様だというので法制の解釈は国務大臣が行うことにした。しかし答弁力が怪しいので野田政権時代に法制局を復活させた。
中曽根元首相は、憲法解釈は最高裁か両院法制局の協議で決めるべきだとの意見だった。歴代法制局長官は通産(現経産)省、大蔵(財務)省、法務省などから出されているが、国際法の最高権威が、外務省から選出されるのは不思議ではない。
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