オバマ大統領の外交能力欠如露呈
―シリア問題解決にプーチンのリーダーシップがカギ―

理事・政治評論家  屋山太郎 
 
 シリア問題をめぐるオバマ米大統領の外交能力の欠落でアメリカの権威は失墜した。オバマ氏はシリアのアサド政権が化学兵器(サリン)を使ったとして、反体制派に加担し、アサド体制の懲罰のため、攻撃を加えねばならないと主張した。国連の安保理の決議をとるのが最善だが、これにはロシア、中国が反対している。このため米国とその同調者だけでも攻撃すると息巻いた。オバマ氏は英、仏が加勢してくれると考えていたようだが、英は議会がいち早く反対の意志を表明。仏だけがついていくかも知れない情勢だった。
 たまたま9月5日サンクトペテルブルグでG20の首脳会議が開かれた。会議の合間に貴賓室でプーチン大統領と英、仏らの首脳が同席した。プーチン氏は英、仏首脳に向って、「あんた達が反体制派に武器を売っているのを知っているぞ」といきなり脅かしたという。これに対して英、仏首脳は「穏健派を助けるためにやっているんだ」と弁解した。プーチン氏は「武器は過激派に渡るのが常識だ。穏健派は武器を横流ししているだけだ。だから最後はヒズボラのような過激派が政権を獲ることになる」と断じたという。加えて「アサドが倒れたら誰を首班にするのか目途が立っているのか」と詰問し、英、仏両首脳は言葉もなかったという。
 おっかぶせてプーチン氏は「ヒズボラやアルカイーダが政権を獲ったら、狙われるのはあんた達(米・英・仏)なんだぞ」と言ったそうだ。
 プーチンは国内にイスラム教地域を抱えているから、過激派を強化したくない。米英仏はアラブ諸国を民主主義体制に変える動機で“独裁体制”打倒派を支持している。しかしプーチン氏の思想はアラブ諸国は王制か独裁体制の方がベターだと考えているようだ。
 イランは1979年、ホメイニ師が革命を起こして王制を倒した。しかしそのあとにできたのは王制時代どころではない宗教独裁国だ。当時、私もテヘランで取材していたのだが、ホメイニ師側近が最初に手をつけたのは、かつてシャー(王を意味するペルシャ語)の忠実な将軍たちを人事の名で追い払ったことだ。次に独自の“革命防衛隊”を設立し、宗教戒律を強めたこと。最後はイスラム独裁を許容する憲法を作ったこと。この憲法で設けられた憲法評議会は独裁の切り札のようなもので、現職で、民主派だったバニーサドル大統領に突然「失格」の烙印を押して解任してしまった。
 エジプトではモルシ氏がイスラム同胞団の支持を得て当選し、憲法制定に動き出した。一方で軍の人事をいじり出した手口はホメイニ革命そっくりだった。ナセル、サダト、ムバラク大統領は歴代過激なイスラム同胞団を押え込んできた。しかしモルシ氏は同胞団を母体に選出された。イラン式の憲法作成に着手し、軍の人事に踏み込んだ。軍部がイランの轍を見て、突如、クーデターを起こしたのは不思議ではない。オバマ氏は単細胞的発想で、「アサド攻撃」と言っておいて議会の承認をとるという。プーチン氏が化学兵器廃絶に動かなければ、大恥をかいたろう。
(平成25年9月18日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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