公明党は世界情勢の変化について行けない様相である。今年の参院選で、山口那津男代表のキャッチフレーズは「自民党の暴走にブレーキをかける」だった。これまでの公明党の発想からすると@集団的自衛権については「行使できない」 A中国とは首脳同志は仲良くすべきだ―というものだったろう。
しかし安倍晋三首相は集団的自衛権の憲法解釈を変えて「集団的自衛権を結ぶ権利もあるし、行使もできる」ようにする意向だ。このために内閣法制局長官を交代させて、いつでも解釈変更できる体制を整えている。
また日中首脳会談については「価値観外交」を正面に据え、条件をつけるなら会わない、とどっしり構えている。この点、菅直人元首相が、胡錦濤主席の訪日に当って、中国漁船体当たり事件を不問にしなければ行かないとの条件に屈したのと、対照的だ。
山口氏は与党の一員として米、中を訪問し、解決の手がかりを探ろうとしたのだろう。米国政界に、安倍首相の“右寄り”を非難する向きがあると聞いて、そのウワサの周辺を探ろうとした。同党は米国とのパイプが細いが、取り敢えず、上院外交委のカーディン議員と会談し、尖閣問題は「対話による解決」で一致したが、そのこと自体全く意味がない。リッパート国防長官主席補佐官は山口氏に「日本が安全保障面で積極的な役割を果すのは歓迎だ」と述べた。山口氏側は「慌てず議論することが大事だ」と対話路線にしがみついた。だが、事態は対話で事が解決するのかという段階に至っている。山口氏が狙っていたバイデン副大統領やケリー国務長官との会談は見送られた。米側は時代錯誤の政治家と会わせても無駄といった趣だったようだ。
10月3日、山口氏の思惑に反して日米は国務(外務)・防衛両相の2+2会議で、日米防衛協力の指針(ガイドライン)の改定で一致した。日米問題を一段と強化する路線が打ち出されたわけだ。ケリー国務長官は「日本の役割は国際的になった」と述べ、両国関係を「フル・パートナーズ」と位置付けた。
公明党は党青年議員団が中国を訪問したが、中国共産党対外連絡部(中連部)の責任者との会談がドタキャンされた。1月に山口氏が訪中し、「交流を深めよう」と話し合ったのに「失礼な話だ」と党幹部は怒っているという。公明党と中国との関係は深く、長いから、話し合えば、日中首脳会談に結びつけられると甘く考えていたのだろう。国際政治の困難さは歴史の流れや潮目が突然、変わることだ。公明党は中国から「井戸を掘った人」と有難がられていると思っているが、重宝がられるのは向こうが得をしている時だけだ。
山口氏は国際情勢を認識し直さなければならない。いわゆる“平和勢力”だけでは世論の支持が得られないのは社民党の凋落を見れば明らかだろう。集団的自衛権の深化こそが日本を平和に導く。(前回、公明党が政権に参加して36年と書きましたが、14年の誤りでした。)
(平成25年10月16日付静岡新聞『論壇』より転載)
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