国家が独立、自衛するためには安全保障戦略の司令塔となる国家安全保障会議(日本版NSC)のような機能は不可欠である。これを万全に機能させるためには、機密情報を洩らした公務員らの罰則を強化する特定秘密保護法も不可欠だ。
日本はスパイ天国と言われ、冷戦中は東側はもちろん西側のスパイも暗躍し、米国は軍事機密が日本から洩れることを極度に恐れた。今も「最も秘密が洩れる国」という評価は変わらない。特に日本の自衛隊は米国から軍事機密を貰っているため、秘密保護法の制定は急務だった。しかし自社対決の時代では秘密保護法制定などは到底無理。このため日本は米国との間で「日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法」を制定した。
第1次安倍内閣の2007年にイージス艦情報漏れ事件が起こった。自衛官と知り合いの中国人女性宅からイージス艦の構造図面、レーダーの捕捉距離など最高度の機密を含むハードディスクが見つかった。その最高機密が中国へ流れた可能性は十分で、日米両政府は愕然とした。流出元は横須賀基地の3等海佐で、海佐は江田島の術科学教官に教え、教官の部下が第三者に流した。3佐ら3人は日米相互防衛援助協定違反に問われて懲戒免職になったが、同法は自衛隊のみに適用され、これが経済産業省から洩れても刑事責任は問えない。
政治の常識から考えて、通常の国が備えているような秘密保護法は必要だ。みんなの党と日本維新の会は同法の制定に急いで乗ってきたが、民主党は「重要な法案だからもっと時間をかけろ」(松原仁国対委員長)と審議延長を主張した。民主党も一度は政権をとった党である。国家にとって常識のような法案なのだから、既に腹案を持っていなければおかしいではないか。
言論界では、治安維持法の復活だという寝ぼけた声まである。軍国主義を守ろうという時代の法律が、民主主義、情報の公開を進めようという時代に復活するわけがない。どんな政府でもテロ対策を含めて外交政策、防衛力を整備する限り、秘密がゼロということはあり得ない。また何が秘密になるとか将来のことまでわからない。具体的に列記せよなどという議論は反対のための反対だ。相手が守ってくれと言った秘密は守らなければ情報は来ない。取材活動でも同じで、取材源の秘匿は記者の魂とも云える。
秘密保護法を審議する国会の委員会に、元毎日新聞記者の西山太吉氏が出席し、「沖縄返還についてスクープをした結果、国家公務員法で縛られた」旨を述べた。
故山崎豊子氏が「運命の人」と題して西山氏をモデルに小説を書いた。西山氏は自らを国家権力の犠牲者と思い込んでいるふしがあるが、事実は西山氏が自分では殆ど書かずに社会党の横路孝弘氏に渡したのである。しかも取材源を守れなかった。佐藤首相が怒ったのは記者が政治に介入したからだ。
(平成25年11月27日付静岡新聞『論壇』より転載)
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