「減反廃止」のカラクリ
WTO農業協定違反の可能性も―

理事・政治評論家  屋山太郎 
 
 安倍晋三首相の「農業を輸出産業に」の掛け声に応えて、政府・自民党は来年から5年間で「減反を廃止」するという。とりあえずこれまで払ってきた減反補助金10アール当たり1.5万円を来年から半額の7,500円にするという。
 このニュースを聞いた一般の人は1970年から続いてきた農政の柱といわれた減反政策が終わるのかといった感慨を持ったろう。私も一瞬、農業の夜明けがきたかと思ったものである。5年間で補助金をゼロにすればコメの価格は5年後には国際価格並みになる。その時代を見据えてコメ農家は必死に大農経営を目指すはずだ。JA農協や農水省は「価格で太刀打ちできないから日本のコメは自給もできなくなる」と言っていた。しかし30〜50ヘクタールを経営しているコメ農家は1俵(60キロ)当たり4〜5,000円で、中国米、タイ米と十分に競争できると言っている人もいる。とすれば、若干の関税をかければ十分だろう。
 だが待てよ。「コメの関税は聖域」と言っていた農業界の静けさは何だ。農林族の親玉である西川公也衆議院議員の落ち着き払った顔を見て、「減反廃止」のウソに気付いた。減反廃止といってもコメ価格が下がらず、農協は全く困らないという”からくり”を農水省、農林議員は考え出したのだ。
 これまで100万ヘクタールもの減反を農水省(名目はJA農協)が割振って、コメ価格を維持してきた。主食用のコメを販売した場合、10アール当たり10.5万円の収入が確保できる。一方、減反した田んぼに農家が米粉やエサ用米の生産をした場合、収入を補填するため国が10アール当たり8万円を交付してきた。エサ用米を作っても高い主食用のコメを作ったのと同じ農家手取りになるようにしたのである。本来なら麦や大豆を作って貰いたいのだが、水田に最も適したものはコメだから、今後の減反分はエサ用米、米粉になるはずだ。
 コメ政策の要は農協にとって主食用米の価格を下げないことである。目下は主食用が1俵1万4,000円ほどに下っているが、本来は1万6,000円が望ましい。農家に自発的に減反を増やして貰うには、エサ用、米粉用を作った方が得という状況を作り出すのがいい。これまで8万円だった補助金を10.5万円まで引き上げるという。これは主食用コメの収入と同じだから、減反政策は破られない。それどころかエサ用、米粉が売れた分だけ主食用を作るより得をすることになる。
 この自由化の時代に補助金を使って、米価を高値に引き上げるという。「減反廃止」などと言って一般国民を欺く詐欺商法だ。農水省はうまくいったと喜ばない方がいい。この政策は明白にWTO農業協定違反になるからだ。というのはエサ用のコメと米粉が最大450万トン生産されるとその分輸入のとうもろこしと小麦をカットせざるを得ない。米国からの1,000万トンのとうもろこし、360万トンの小麦をカットすることになるからだ。


(平成25年12月4日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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