都知事選に見る自民党左派と民主党護憲派の没落

理事・政治評論家  屋山太郎 
 
 都知事選で田母神俊雄氏が61万票を集めたのと共産党候補の宇都宮健児氏が細川護煕元首相を抜いて2位になったのを意外だったと思う人が多い。自民党は将来に懸念を残し、共産党はイケイケどんどんといった気分だろうが、現体制で政権を執ることなど有り得ない。
 田母神氏が思いの外、票を集めたのは、安倍首相が誕生したのと同じ事情。つまり政界の左半分が瓦解し、右半分が残った中で選挙を行なえば右派が勝つのは当たり前だ。安倍氏は右派の真ん中。田母神氏は右派の中の右に位置する。田母神氏は「ネットウヨク」に大モテで、約8割が田母神支持だったという。自民党が懸念しているのは田母神氏に投票したうちの20万票が本来、自民党に入れていた票だという。都知事選で無党派層は2011年石原慎太郎氏に35%入れ、2014年は舛添要一氏に32%流れた。共産党は前回、小池晃氏に9%行っただけだったが、今回、宇都宮氏には28%も流れた。
 この無党派層の流れのうち民主党系は前回東国原英夫氏に32%行ったが、今回の細川護煕氏には24%しか行かなかった。
 得票数や無党派数の流れを見て気づくことは民主党の存在感が薄れたことだ。野田政権で民主党が分裂し、選挙で惨敗したことは、単なる政党の浮沈の問題ではない。第2極を占める政党が瓦解したということだろう。民主党は現体質で選挙を重ねれば、元の政権政党に戻ると考えない方が良い。
 第2極たり得る政党の資格は外交・防衛問題について自民党と差がないことだろう。民主党政権は「日中の距離を縮めるために米国と離れる」(鳩山由紀夫氏)と日・米・中の正三角形論をとった。その結果、中国漁船が日本の監視船に体当たりしても起訴しない属国のような地位になりさがった。日米同盟以外に外交の選択肢がないことを国民は認識したはずだ。従って民主党が第2極として浮上するつもりなら、党内の護憲派と訣別する道をとるしかない。
 どうしても護憲に固執する派は共産党にいくしかないことを今回の都知事選は示した。河野洋平氏に連なる自民党左派と民主党の護憲派は没落しつつあると自覚すべきだ。自社馴れ合い政治の体質が染みついた人達、官僚が政治をやるものと思い込んできた人達は、政治情勢が全く変わった局面に入ったのだという認識がない。
 小沢一郎氏はかつて民主党のリーダーだったが、新しい野党結集の手段として、イタリアで成功した「オリーブの木」方式を称えたことがある。オリーブの木が成功したのは主柱となった共産党がソ連邦が解体するとみて、早々に党名を「左翼民主党」に変えたこと。党内の人事、政策決定についても民主集中制という“独裁”を止め、多数決に改めたことだ。ちなみに共産党の時代から、軍隊を認め、NATO加盟も認めていた。日本共産党が政権を狙うのは無理だ。
(平成26年3月19日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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