オバマ大統領来日
―外交の本質欠くオバマ外交、安倍外交には通用せず―

 
理事・政治評論家  屋山太郎 
 
 米大統領の来日を賭けたTPP交渉は合意に至らず、オバマ大統領が期待した成果は得られなかった。オバマ氏の思惑では(1)尖閣諸島を安保条約の適用範囲にすると言明(2)集団的自衛権の行使容認――の2つを保障すれば、安倍氏は渋々にせよTPPで妥協するだろうと思っていたようである。
  銀座のすし会談の席上、オバマ氏は「シンゾーの支持率が60%に対して私は40%台。ここはオレに譲ってくれるんだろうな」と持ちかけたという。TPP交渉の焦点を豚、牛肉に当てたのは解せなかった。コメ、麦を交渉すれば急務である日本農業の構造改革に結びついたはずだ。なぜ豚、牛肉に光が当たったかといえば、米側が、直ぐに点数になるものが欲しかったのだろう。
 かつてレーガン大統領と中曽根康弘首相のコンビで「ロン・ヤス」関係が築かれた時代のこと。米国務省が日本に強く要求する経済問題があって、レーガン氏に「催促してくれ」と頼んだところ、レーガン氏は一言「オレはヤスの困るようなことをしたくない」と断った。2人のリーダーの友情が2つの国の関係を好転させることは世界の中にはしばしばある。
 安倍氏はすし屋でオバマ氏の要請をはぐらかしたそうだが、2つの点でオバマ氏を信用していなかったからではないか。
 1つは麻生副総理のつぶやきが洩れたように「オバマに力はない」と安倍氏も思っていることだ。期待できない相手に譲歩して、その結果を見た議会がオバマ氏に交渉の全権を与えなかったらどうなるか。次の交渉では違う相手が日本が譲歩した線を交渉のスタート台と考えるはずだ。
 2つは、安倍氏はオバマ氏の外交能力を全く信用していないことだ。尖閣と集団的自衛権の行使問題のお墨付きを貰っても、今更さしたるプラスではない。安倍氏がオバマ氏を信頼するに足りない人物と思っている原因は慰安婦問題だろう。オバマ氏にとっては日米韓の三国連携が揺れる東アジアに対応する決め手だと信じている。にもかかわらず日韓は仲違いをしているのは解せない。仲違いの原因をオバマ氏は単なる仲違い程度に思っているようだ。しかしこれは名誉を賭けた争いなのだ。上院時代、オバマ氏はマイク・ホンダ議員が提出した「性奴隷非難決議」に応援演説をぶって成立させた。性奴隷はもちろん慰安婦の強制連行さえ“でっち上げ”だと安倍氏は信じている。河野談話の成立過程も検証されつつある。
 でっち上げの架空の話に基いて日本の歴史が語られ、それを証明するように韓国製の慰安婦像が世界に広まろうとしている。これは時が経てば水に流れると考えてきた日本外交の大失敗だ。反論すべき時に即反論せよと安倍氏は外務当局に厳命している。安倍氏は日本人の名誉の問題と捉えており、その深刻さを理解しないオバマ氏を外交音痴と軽蔑している。だからこそ、シリア、ウクライナ問題でプーチン大統領にナメられるのである。
(平成26年4月30日付静岡新聞『論壇』より転載)

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