米国が毎年5兆円ずつ10年間軍縮を続け、中国がこれも10年間5兆円ずつ軍拡を続けるとしたら、10年で100兆円の開きが出る。この軍縮のために米国は1つの戦争しかできなくなり、アジア地域に軍を重点化するのではないかとみられていた。米国自身がピボット政策と名付けていたものである。
米国シンクタンクCSIS(戦略・国際問題研究センター)は過去2年間かかって、国防費の変化によって米軍の編成がどう変わるかの報告書を書いた。
先に5兆円と書いたのは大雑把に丸めた数字。今回は日本戦略研究フォーラムの政策提言委員・矢野義昭氏の正確な数字による。
2012〜2021年度までの10年間で米国防費は4920億ドルの削減が義務付けられている。CSISではこの国防費削減計画が進むとどうなるか、この2年間研究してきた結果について、「強制的歳出削減措置が実行されれば、国家安全保障に『破滅的な』(disastrous)影響を与える」と報告した。また上からの強制的な削減枠が課せられているため、軍内で予算配分をめぐる内部的な緊張が高まっているという。
これまで米軍の国防費削減をめぐっては、まず「リバランス戦略」「オフショア、コントロール戦略」といった概念をあげて、その次に戦略や作戦概念、その規模が議論されてきた。その上で経費がいくらかかるかを見積もってきた。
しかし今回の「報告書」によると、政府が決めた予算枠を前提として、各種戦術を考え、その中で「最もましな戦略」を選択することになる。12年度の予算は6600億ドルだが、21年度予算は5200億ドルとなり、額面で21%の減額となる。コストインフレやドル安を勘案すると、実質購買力で31〜32%の減額になるという。国防予算は募集、訓練などの制度的予算と給与、社会保障、恩給などの義務的経費がある。従って闇雲に削るわけにはいかない。つまり全体予算の32%部分は“固定経費”で、この部分は膨張の見込みだという。一方、研究開発、装備調達などの予算に一律削減をかけると、実質的に31〜32%も減額になる。しかし各軍のテロ対策などの共通部分を削るわけにはいかない。要するに全体の32,8%程度の予算が最小限必要で、不足額は12年度から10年間で1.8兆ドルになる。
さらに軍の縮小を前提としたリバランス戦略が不可能になりつつある。
米軍はクリミアの例で見られるように @中・露による世界的挑戦に対して、迅速な対応能力が必要 Aアジア・太平洋正面だけに戦力を集中させることは、グローバル・パワーとしての地位を保てない B引き続き中・露に対して技術的な優位を維持し、グローバル防衛システムを整備し、宇宙、海空、サイバーなどの空間での支配力を維持する方が国益にかなっている――との判断である。
CSISの分析を透視すれば米軍は日本に地上軍を派遣する余裕はないということだ。
|