朝日新聞2つの「吉田証言」取り消し
―「日本と日本人への冒瀆」どう責任をとるのか―

 
理事・政治評論家  屋山太郎 

 朝日新聞の二つの“吉田証言”取り消しで、日本の経済界、マスコミ、政界、教育界に至るまで大激震が走っている。
 福島原発の吉田昌郎・元所長が、「事故の際、所員の9割が待機命令に違反して撤退した」という14年5月20日の朝日新聞のスクープはショックだった。特に電力業界、世界の原子力研究機関に衝撃を与えたらしい。当初、日本人が「敵前逃亡した」と受け取られたらしいが、全原発が爆発すれば逃亡も不可能。「おかしい」と思っているところに実は「福島50」と呼ばれる決死隊50人が残っていたということがわかったらしい。
 ところが、このあと産経新聞、読売新聞が相次いで「吉田所長が必要人員を残して避難させた」ことを報道した。この吉田調書は当初「部外秘」の約束で作成されたもの。政府の立場も曖昧なままでは困る。かと言って「どちらが正しい」と政府が判断すべきものでもない。朝日新聞などは自社の正統性を主張しかねない。
 重要なのはその当時の東電、政府の危機管理の動きを正確に知ることだ。「事情聴取した人に了解を取り、調書を公開してマスコミに判断させる」と菅官房長官が決断した。
 これと並行して朝日新聞には1983年の吉田清治氏著の「私の戦争犯罪」をオーソライズした事件が暴かれつつあった。同書は済州島で慰安婦にするために200人の“女狩り”をしたという“体験記”だが、当時から事実が疑問視されていた。しかし韓国は“朝日史実”をもとに元慰安婦に賠償金を払えという。朴槿恵大統領などは世界中を廻って日本は「歴史問題」を直視しないと言って歩いた。
 しかし93年の「河野談話」を検証する段階で、“女狩り”も軍が関与したという証拠はないという事実がわかってきた。そこで朝日新聞は8月5・6日の2回にわたって自社の慰安婦記事を検証した結果「吉田氏についての記事16本を取り消します」との記事を載せた。
 この一流(と言われた)新聞が何のために嘘を書き続けたのか、平凡なジャーナリストの私にはわからない。日本人の中・韓に対するイデオロギーを変えたいと思ったのか、日本の外交政策に影響力を持ちたいと思ったのか。しかし虚構の上にはどんな理屈も組み立て得ないことがわかったろう。
 12年度に教科書検定に合格した現行の高校歴史教科書は6社15冊あり、このうち13冊に慰安婦に関する記述がある。
 実教出版の「高校日本史A」は「軍が関与した慰安婦問題」の見出しのついた項がある。清水書院の「日本史A」には「女性の中には日本軍に連行され『軍』慰安婦にされる者もいた」。山川出版社の「新日本史B」には「朝鮮人の中には従軍慰安婦になることを強要された者もあった」。
 こういう記述が教科書に登場し始めたのは朝日が吉田清治氏を妙に”英雄視”して紙面で持ち上げたからだ。裏もとっていなかった。

(平成26年9月17日付静岡新聞『論壇』より転載)

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