正鵠を得た安倍内閣の「地方創生国会」
―地方財源の使い道は地方に任せよ―

 
理事・政治評論家  屋山太郎 

 国勢調査によると日本人の人口は2048年には1億人を切る計算だという。さらに悪いことに、人口が大都市に流出し、地方は深刻な経済不況になる。民間研究機関「日本創成会議(座長・増田寛也元総務相)は今年5月、2040年には全国の約半数に当たる896市区町村の存立が難しくなる可能性があるという。
 少子化対策の決め手は現在1.3程度の出生率を2以上にもって行くことだが、フランスを除いてどの先進国(米国を除く)も成功していない。フランスは出生率を上げるために、出産休暇中にも8割の給与を払い、再出勤の際には元の地位から落とさない。市町村長は待機児童を出さないよう施設を準備する義務を負う。子供が増えると税制も有利になるし、子供が4人もいれば、国鉄から幼児園、遊園地に至るまでタダになる。この結果出生率は1.6から2.02にまで回復した。
 出生率の議論をすると1億人でも8000万人でもその規模で豊かに暮らせる社会を造れば良いじゃないかというご仁が出てくる。その意見に同意しても、半分の村や町が無くなりそうだという現実を是認するわけにはいかない。
 安倍内閣が「地方創生」を旗印にして、次の国会を「地方創生国会」と名付けたのは正鵠を得ている。安倍首相は「道州制」にすると言っているが、その困難さは並大抵ではない。地方分権推進審議会といった類の会に30年も前から何回か関わっているが、実質的な変化がもたらされた例がない。
 日本の地方制度は官僚内閣制の延長線上にある。終戦を境に首長こそ民選になったが、知事の半分は役所の疑似天下り。県庁の建設部長や農政部長など要職に1700人が出向している。また各省はブロック局を持っていて、地方行政を霞が関から動かしている。国家公務員30万人のうち霞が関には8万人いるだけ。ブロック局の国家公務員を地方公務員にしようという動きは常に潰されてきた。
 霞が関主導を可能にしているのは地方財源を中央が握っているからだ。全国自治体のうち1700以上が地方税収などで自分の台所を賄えていない。財源不足分(12年度計画で約19.5兆円)は一定額を国からの地方交付税で負担して貰っている。地方はお金をくれる所には逆らえない。因みに大阪市長の橋下徹氏(維新の党共同代表)は消費税を全部地方に寄越せと言っている。
 首都圏に3000万人が密集し、地方の町が潰れそうだというのは異様な光景で、先進国では日本だけだろう。許認可権限を中央が持ちすぎるために、膨大な企業が本社を東京に移した。地方交付税を“平等”を原則に配分する結果、同じような町が出現し、少子化と共に滅び行く。石破地方創生担当相の知恵の出しどころは、当面財源を中央から配るにせよ、使い道を自由にすることだ。引退後に地方に住みたい人は内閣府調査では68%もいるのである。


(平成26年10月2日付静岡新聞『論壇』より転載)

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