「政治主導」で決意した解散総選挙
―消費税再増税を国民に問う―
安倍首相は7~9月のGDPが0.4%減と予想外のマイナスとなった結果、10%への再増税を見送ることを国民に問う総選挙に踏み切ることを決断した。10%への再引き上げは5%を8%に引上げる際の自公民の三党合意で決められたもの。何より財務省の財政再建策を至上として考えられたものだが、安倍首相は最初から懐疑的だった。民主党は「約束違反」とは言うものの自らも「増税反対」を打出している。となると選挙の争点は“官僚支配”の是非になるのではないか。
アベノミクスの3番目の矢は特に産業の構造改革が必要で、それには数年の時間が必要だ。農業構造改革の手始めにはまず農協改革がある。医薬・医療は3兆円の赤字だが日本の医療水準からみて不可解だ。円安が定着することによって海外から日本に引き上げてくる工場や会社もあるだろう。
やることは山ほどあると首相が思っている中で、景気を減速、衰退させる増税を敢えて打つ手はない。しかし首相を取り巻く財務官僚やエコノミスト、自民党の重鎮はほぼ例外なく増税論者だ。自民党の野田毅税制調査会長、谷垣禎一幹事長ら古手はこぞって財務省応援団だ。かねてから財務省は国の研究機関は勿論、民間の総合研究所の類の理事長、所長の地位を占めている。財務省方針に逆らうなどということは殆どない。かつては国の経済成長の数値まで似たような伸び率を示したものである。
この官僚中の官僚が、長年日本の政治を仕切ってきた。安倍氏は首相になるなり、日銀の白川芳明総裁のクビを切り、財務官僚を政府の要職から外した。安倍政治を実現するためだ。
この脱官僚、脱財務省の作業によってアベノミクスは実現できた。安倍氏が登板しなかったら、日本は相変わらず、デフレの坂道を転がっていたに違いない。安倍氏の政治手法は自分の“政治感”を信じて方向を定め、各省に知恵を出させるやり方だ。
ところが、安倍氏が金融を任せてきた黒田日銀総裁は9月15日、消費税の10%増税について、こう述べた。
「増税して景気が落ち込んだら、その時点で財政・金融的な措置をとることが可能だが、仮に先送りによって財政再建に向けた決意、方針に疑念がもたれて国債価格が大きく下がったりすると財政・金融政策で対応することが非常に難しくなる」
この考え方は財務官僚が繰り返し述べてきた増税を説くセリフで、安倍首相は「黒田よ!お前もか」と叫びたい心境だったろう。このあと黒田氏は滅入りそうになっていた金融市場に再び異次元緩和を行って株式市場は活性化された。安倍氏は財務官僚に取り囲まれた政治環境を一気に払い、持論の「政治主導」の政治を確立したいと目論んで解散したのだろう。
(平成26年11月19日付静岡新聞『論壇』より転載)
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