衆院総選挙
―憲法・国防を国家運営の基本に据えよ―

 
理事・政治評論家  屋山太郎 

 総選挙を控えて野党各党は一強多弱の体制をなんとかまとめようと懸命になっている。取り敢えず民主党と維新が競合する選挙区ではどちらかに絞る作業が進められているようだが、こういう小細工では政権は狙えない。
 無所属や弱小政党の候補者は対立候補を立てられるのを恐れ、選挙の時は取り敢えず野党第一党に籍を置くのが常だ。いま解党したみんなや無所属議員が寄らば大樹の蔭といった風情で民主党入りをしているが、この方式で大政党となり、政権をとるに至るとは到底考えられない。
 維新の党の橋下共同代表(大阪市長)は、今回は立候補を見送ったが、常に「民主とは一緒になれない」と言っている。とすれば次の選挙でも政権はとれないということになる。
 橋下氏が常々「福島瑞穂さんとは一緒になれない」と語っている。橋下氏が受け入れられない点は @連合の左翼組合の支持を受けていること Aこの連合も含めて憲法改正に反対していること――だろう。その思想によってかつての社会党の「非武装・中立論」が生まれた。橋下氏から見ると非武装・中立論をきっぱり清算した政党でなければ、政権を担う資格がないということだ。
 海江田代表の演説を聞いていると、この人も護憲論(憲法改正反対)の立場に立っているのかと思うことがある。海江田氏の発想では「そういう機微に触れることは暴かず、合意する点だけで共同しよう」ということのようだ。
 この態度は憲法や防衛の問題こそ国の基本と考える人から見ると最も怪しい人物だ。
 イタリア共産党は冷戦中も軍隊を認めNATOに加盟することを認めていた。そうでなければいずれソ連(現ロシア)に糾合されると国民が潜在的に恐れていたからだ。冷戦終了後、「共産党」の党名を「左翼民主党」と変え、他の小政党を集めて一気に政権をとった。「オリーブの木」(運動)と言われたが、オリーブを結びつけたのは芯が国防問題で一致していたからだ。
 野党第一党の民主党に弱小政党がついていく条件は国防問題で民主党が脱皮できるかどうかだ。旧社会党系の議員は今回の選挙で10人近くが代替わりするだろう。その時、民主党が大脱皮をすれば、政権政党として浮上してくる可能性があるが、頭の体操のような防衛論を繰返している現状では、第3極に墜落する可能性がある。
 東シナ海では中国が勝手に防空識別圏を設定し、尖閣諸島を海警部隊が脅している。小笠原諸島沿いの海域には一時、200隻を超える中国のサンゴ密漁船が出現した。密漁船の乗組員が兵隊だったとしたら。あっという間に島は占領されるだろう。これに備えて日本側には海上自衛隊のイージス艦もあるが、米軍とは異なりトマ・ホークを装備していない。また海自はSH60ヘリコプターも所有しているが、反撃できる対艦ミサイルを装備していない。反撃も攻撃もできなくしておいて何が国防か。


(平成26年11月26日付静岡新聞『論壇』より転載)

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