「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」の改定を評価する
政策提言委員・FSI安全保障研究所長  渡部悦和

前言
 日米両政府は4月27日、「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」* を18年ぶりに改定することに合意した。新しいガイドライン(以下、新ガイドラインと記述する)は、「日米同盟を一変するものだ」とアシュトン・カーター国防長官が評価したように、日米同盟の歴史の中で非常に重要なガイドラインとなった。そして、28日、日米首脳会談後に発表された「日米共同ビジョン」でも「新たな日米防衛協力のための指針は、同盟を変革し、抑止力を強化し、日米両国が新旧の安全保障上の課題に長期にわたり対応していくことを確実なものとする」と記述し、日米ともに新ガイドラインを高く評価している。その意味において新ガイドラインは安倍首相の「積極的平和主義」の成果であると同時に、任期が残り2年を切ったオバマ大統領にとっても非常に価値のあるレガシー(業績)となった。
 今回のガイドライン改定を仕掛けたのは日本側であった。一時期、改定に消極的であった米側を引き付けたのは、日本側の極めて前向きで積極的な姿勢であった。積極的平和主義を掲げる安倍首相の下で、長年タブーであった安全保障上の諸問題が逐次解決されたことと、軍事力を急速に増強し海洋進出を活発化させる中国の脅威が相まって、今回の日本側の積極的な対応になったものと思う。日本がイニシアティブをとってガイドラインを改定し、日米同盟の再生を達成した点は高く評価されるべきであろう。
 新ガイドラインを理解するためには、ガイドライン改定における日米の狙いを理解する必要がある。日本側の狙いは、尖閣諸島防衛をはじめとする日本の防衛にシームレスに対応するために「米国のコミットメントを明確にすること」であり、米国側の狙いはグローバルな諸問題の解決のために、日本の役割分担を拡大させていくこと、つまり「日米同盟のグローバル化」であったと思う。日米両国ともにその狙いがかなり達成されていると認識している。例えば、米国側が最も評価している点は、日本側が活動の地理的制約を取り払い、地球規模に活動することを宣言したことにあると言われている。また、「日米共同ビジョン」でも、「日米両国がグローバルな射程を有するようになった同盟を強化する中で、米国は・・・日米安全保障条約に基づく自らのコミットメントの全てについて固い決意を持っており、揺らぐことはない」と明言している。
 一方で、新ガイドラインに対する懸念もある。日本側がかなり背伸びをして今回のガイドラインを完成させたと思われるからである。我が国が、世界の平和と安定に責任を持つということは、日本がグローバルな大国でなければ言えない言葉である。その能力特に自衛隊の能力に見合った役割を引き受けようとしているのか、かなり無理して積極的な役割を引き受けたのではないのかという懸念がある。現在の防衛力、経済力、防衛予算で新ガイドラインに記述されている事項を実行可能であるのか、その実効性が今後厳しく問われるであろう。
 なお、ガイドラインは、あくまでも一般的な大枠と政策的な方向性を示す文書であり、2プラス2で合意された日米安全保障協議委員会(SCC)** 共同発表の文書「変化する安全保障環境のためのより力強い同盟 新たな日米協力のための指針」と日米首脳会談後公表された「日米共同ビジョン声明」も併せて読まないとガイドラインを十分に理解できない。そのため、三つの文書を参考にし、「米国のコミットメントの明確化」と「日米同盟のグローバル化」をキーワードとして分析し、記述していく。

1.過去のガイドラインと新ガイドラインの特色
 ガイドラインは特定の国や事態を想定しているものではないという建前があるが、実際にはその時々の特定の国や事態を想定している。例えば、1978年版のガイドラインは、東西冷戦の真っただ中に作成されたものであり、旧ソ連の日本侵攻に対し如何に日米共同対処をするかが焦点であった。
 1997年版のガイドラインは、冷戦終結後の北朝鮮の核開発などの脅威を踏まえた日本に対する武力攻撃及び日本周辺事態(朝鮮半島有事、台湾有事など)に対する日米共同の対処要領などが焦点であった。
 そして2015年版のガイドラインでは、台頭する中国に日米共同で如何に対処するか、日本がグローバルな平和と安定のためにいかなる協力を行うかが焦点であった。2015ガイドラインには「中国」という国名は記述されていないが、明らかに新ガイドラインの隠れた主役は中国である。中国のアグレッシブな台頭や14年間にわたる対テロ戦争などによる米国の相対的な国力の低下により、米国一国のみでは世界の諸問題を解決することができなくなった環境下において、新ガイドラインは策定されたのである。

2.日米安全保障委員会共同発表の「変化する安全保障環境のためのより力強い同盟 新たな防衛協力のための指針」について
 新ガイドラインの背景も含めて説明したSCCの共同発表文書の主要点は以下の通りである。
(1)概観
 日米同盟の役割について、「日米同盟が、アジア太平洋地域の平和と安全の礎(cornerstone)として、より平和で安定した国際安全保障環境を促進する基盤(platform)としての役割を果たす」とし、「地域の平和・安全・繁栄における日米同盟の不可欠な役割を再確認した」とその重要性を強調している。
 日本の民主党政権時代に最悪の状態に陥った日米同盟を修復できたと評価できる。
 日本が強く求めた米国のコミットメントについて、「日本の安全、国際の平和と安全に対する同盟のコミットメントを再確認した」、「核及び通常戦力を含む米国の軍事力による、日本の防衛に対する米国の揺るぎないコミットメントが米国のアジア太平洋地域へのリバランスの中心にある」とし、「尖閣諸島が日本の施政の下にある領域であり、安全保障条約第5条の下でのコミットメントの範囲に含まれること、及び同諸島に対する日本の施政を損なおうとするいかなる一方的な行動にも反対することを再確認した」と記述し、日本側の狙いである米国のコミットメントの明確化に最大限の配慮をしている。

(2)新たな日米防衛協力のための指針
 新ガイドラインにより、「日米両国の役割・任務を更新し」、「同盟を現代に適合したものとし、平時から緊急事態までのあらゆる段階における抑止力及び対処力を強化する」とし、グレーゾーン事態を含むあらゆる段階における抑止力及び対処力の強化を強調している。
 また、「新たな指針とシームレスな安全保障法制の整合性を確保することの重要性」を述べ、「当該法制が新たな指針の下での二国間の取り組みをより実効的なものとする」とし、新ガイドラインと安全保障法制の整合性を強調している。
 更にコミットメントについて、「指針の中核は、日本の平和及び安全に対する揺るぎないコミットメントである」とし、コミットメントを果たすための能力を強化する方法・手段として、「同盟調整メカニズム」、「地域的な及びグローバルな協力」、「新たな戦略的な協力」、「人道支援・災害救援」、「力強い基盤」を列挙している。

(3)二国間の安全保障及び防衛協力
 最新鋭の米国の装備品を日本に配備することの戦略的重要性を強調し、「当該配備は同盟の抑止力を強化し、日本及びアジア太平洋地域の安全に寄与する」としている。以下、細部にわたり米軍の最新装備品等の配備計画を紹介している。
 米海軍によるP-8哨戒機の嘉手納飛行場への配備、米空軍によるグローバル・ホーク無人機の三沢飛行場へのローテーション展開、改良された輸送揚陸艦であるグリーン・ベイの配備、米海兵隊によるF-35Bの2017年日本配備、2017年までに横須が海軍施設にイージス艦を追加配備、本年度末に空母ジョージ・ワシントンをより高度な空母ロナルド・レーガンに交代させる。
 拡大抑止について、「核及び通常戦力を含め、日本に対する米国の防衛上のコミットメントの信頼性を強化する日米拡大抑止協議を通じた取り組みを継続する」としている。
 「弾道ミサイル防衛能力の向上」のため、「2014年12月のXバンド・レーダーの経ケ岬への配備」、「2017年までに2隻のBMD駆逐艦の日本への追加配備する」としている。
 「宇宙安全保障における協力の強化」について、「JAXAによる宇宙状況監視(SSA:Space Situational Awareness)情報の米国への提供」、「両国の宇宙に関連した事項の議論のための新たな枠組みを設置する」としている。
 「サイバー空間に関わる諸課題に関する協力」について、「日米サイバー対話、日米サイバー防衛政策作業部会を通じた、脅威情報の共有及び任務保障並びに重要インフラ防護分野における協力をする」としている。

(4)地域的及び国際的な協力
 「日米同盟がアジア太平洋地域の平和及び安全の礎であり、より安定した国際安全保障環境を推進するための基盤である」としている。
 「韓国、豪州、ASEANの主要なパートナーとの三カ国及び多国間協力の拡大」が必要であるとしている。

(5)在日米軍再編
 「普天間飛行場の継続的な使用を回避するための唯一の解決策が辺野古地区への代替施設の建設である」としている。

3.「2015ガイドライン」の主要な論点
(1)地理的範囲を極東から地球規模へ拡大
 新ガイドラインの最大の特徴の一つは、「日米同盟のグローバルな性質」を強調し、日米の防衛協力の地理的制限を撤廃したことである。1997ガイドラインでは日本防衛と日本周辺事態(朝鮮半島有事、台湾有事など)に対する日米共同対処が焦点であり、その地理的範囲も「極東(フィリピン以北並びに日本及びその周辺)」の範囲を越えないと説明されてきた。
 しかし、新ガイドラインにおいては、地理的制限を取り払い、「アジア太平洋地域及びこれを越えた地域」と規定され、グローバルな日米協力が可能となった。カーター国防長官が言うように、「アジアと世界中で日米の協力が可能となった」のである。一方で、自衛隊の海外展開能力は限定される。任務の必要性と展開能力の可能性の両面を検討して実際の活動地域は決定されるのであろう。
ガイドライン改定作業における米国側の狙いが、「グローバルな諸問題の解決のために、日本の役割分担を拡大させていくこと」であったことを思えば、米国の狙いは成就したのである。

(2)米国のコミットメントの確約
 日本側の狙いは、尖閣諸島防衛をはじめとする日本の防衛にシームレスに対応するために「米国のコミットメントを明確にすること」であったが、その狙いは達成されている。
 米国においては、尖閣諸島を巡る紛争などに米国が巻き込まれることを恐れ、日本防衛にコミットメントすることに消極的な論調もあったが、「日米安全保障条約に基づく自らのコミットメントの全てについて固い決意を持っており、揺らぐことはない」と米国のコミットメントが明示されたことは、中国の脅威などに対する抑止及び対処の観点で極めて重要な意義を有する。

(3)安全保障法制の整備と新ガイドラインの連携
 当初、ガイドラインの策定を2014年末で完了させようとしたが最終的に断念したのは、新ガイドラインと集団的自衛権行使の限定容認を含む安全保障法制と整合性を取るためであった。今回、安全保障法制の全体像が政府・与党で合意されたことを受けて、新ガイドラインには、集団的自衛権行使の限定容認を含む様々な日米協力が盛り込まれた。つまり、平時から有事までシームレスに対処するために、平時、重要影響事態、存立危機事態、武力攻撃事態のそれぞれにおける日米協力の内容が盛り込まれている。日本側における安全保障法制策定の努力を米側が評価して、今回の新ガイドラインの合意に至ったのである。
 今後、国会等で問題になるのが、新ガイドラインの根拠になる安全保障法制案が国会で本格的に審議されていないにもかかわらず、新ガイドラインが日米政府間で決定されたことである。国会での活発な議論を期待したい。

(4)同盟調整メカニズムの設置
 今回、日本側が重視したのが調整メカニズムの設置であり、それが新ガイドラインに盛り込まれたことは成果である。
 今回、新ガイドラインでは、「V. 強化された同盟内の調整」の項目を設け、「日米両政府は、新たな、平時から利用可能な同盟調整メカニズムを設置し、運用面の調整を強化し、共同計画の策定を強化する」と明示された。
 平時から緊急事態までのあらゆる段階において自衛隊と米軍間で政策面及び運用面の調整を行い、共同計画を策定することは極めて重要である。今後は、調整組織、手順・基盤(施設、情報通信インフラなど)を早期に確立し、常に訓練・演習を繰り返すことが重要となる。

(5)宇宙及びサイバー空間に関する協力
 米国は宇宙及びサイバー空間での日米協力を非常に重視している。新ガイドラインでも「Y. 宇宙及びサイバー空間に関する協力」という項目を掲げ、宇宙及びサイバー空間を新たな戦略的領域と規定し、その安定及び安全を強化するとしている。
 米軍の作戦遂行において宇宙の利用、衛星の利用は不可欠である。例えば現代戦においてC4ISR(指揮・統制・通信・コンピューター・情報・監視・偵察)は作戦において不可欠な機能であるが、その機能の多くは衛星に依存し、衛星を抜きにした作戦は考えられない。このことを熟知する中国の人民解放軍は、作戦初動における対衛星兵器を使った相手国の衛星兵器の破壊及び機能低下の作戦を重視している。このため、米軍は、衛星の破壊や機能低下を前提とした対処要領及び作戦を考えている。
 また、米国は、日本の宇宙における状況認識能力や海のドメインでの状況認識(MDA: Maritime Domain Awareness)能力の向上を求めている。日本のこれらの能力は、中国の海警局や中国海軍の活動をモニターするのに理想的であるという。日本の軍事宇宙政策が日米同盟改善の中核になるという意見もある。いずれにしろ、米国は、同盟国日本との宇宙における協力を非常に重視している。日米が協力して、宇宙システムの抗たん性を確保し、宇宙状況監視を実施することは極めて重要である。そして、「宇宙安全保障における協力の強化」について、「JAXAによる宇宙状況監視(SSA:Space Situational Awareness)情報の米国への提供」、「両国の宇宙に関連した事項の議論のための新たな枠組みを設置する」としている。
 サイバー空間における日米協力もまた非常に重要であり、「日米サイバー対話、日米サイバー防衛政策作業部会を通じた、脅威情報の共有及び任務保障並びに重要インフラ防護分野における協力をする」としている。
 軍事的にはサイバー作戦(CO: Cyberspace Operation)と電子戦(EW: Electronic Warfare)を密接不可分な作戦として考えることが重要である。その意味で両者を融合したサイバー電磁スペクトル活動(CEMA:Cyber Electromagnetic Activities)が重要となる。
 特に米軍や中国人民解放軍は、A2/AD(接近阻止/領域拒否)環境下における作戦において、宇宙での作戦(相手の衛星の破壊など)、サイバー作戦と電子戦の融合した作戦を重視している。平時である現在この瞬間にも、我が国の各種システム・官公庁・企業・個人に対するサイバー作戦は実行され、常態化している。そして紛争発生前後においては宇宙での作戦(対衛星攻撃など)、サイバー作戦、電子戦が同時並行的に実施されるのである。

(6)領域横断的な作戦(Cross Domain Operation)
 作戦する領域(ドメイン)には陸・海・空・宇宙・サイバー空間の5つがあり、領域横断的な作戦(クロス・ドメイン・オペレーション、以下CDOと記述する)が現代戦においては常態になっている。新ガイドラインにおいては、「X.領域横断的な作戦」という項目を新たに設けて、「自衛隊及び米軍は、日本に対する武力攻撃を排除し及び更なる攻撃を抑止するため、領域横断的な共同作戦を実施する。これらの作戦は、複数の領域を横断して同時に効果を達成することを目的とする」と記述している。
 CDOの具体例として、日米共同のISR活動、宇宙及びサイバー空間における日米協力、特殊作戦部隊の協力などを列挙している。そして、特に「米軍は、自衛隊を支援し及び補完するため、打撃力の使用を伴う作戦を実施することができる。自衛隊は、必要に応じ、支援を行うことができる」と記述し、CDOにおける米軍打撃力の使用を例示している。
 CDOが「Y.宇宙及びサイバー空間における協力」の重要性に直結するのである。

4.画期的な新ガイドラインに対する若干の懸念
(1)我が国は本物の国家安全保障戦略を持っているか?

 ガイドラインの改定における疑問は、我が国が本当の国家安全保障戦略を持っていないのではないかという疑問である。政府は、2013年12月、国家安全保障戦略(NSS : National Security Strategy)を発表したではないかと反論する人がいるであろう。確かに昨年12月に発表されたNSSは、我が国において初めて発表されたという点において価値が高いものである。しかし、その内容を子細に読んでみると対外的に公表するための文章の域を出ないことが分かる。国家は本来、今回のNSSのような対外的公表版以外に、対外的に公表しない非公開版NSSも作成・保持すべきである。しかし、我が国は非公開版NSSを作成しているであろうか。この非公開版NSSこそが防衛戦略や外交戦略の真の根拠となるのである。
 特に今回のガイドラインは、中国の強圧的な台頭にいかに対処するかが焦点であるが、包括的な対中戦略を我が国と米国が本当に共有しているか否かが問われている。今回のガイドライン改定作業において問題になっていたのが日米の対中脅威認識の違いである。対中脅威認識が違えば、対処方針も違う。どの程度まで我が国の主張を米国に理解してもらうのか、それは我が国が本物の安全保障戦略を持っているか否かにかかっている。
 そして、以下に指摘する主要な論点は、我が国が本物の安全保障戦略を持っているか否かに深くかかわる論点である。

(2)「グローバルな平和と安全のための協力」に対する覚悟はあるか?
 米国は、米国主導の秩序に挑戦する中国への対処、ロシアによるクリミア併合等のウクライナ問題、中東に於けるISIL(「イスラム国」)への対処、エボラ出血熱への対処など地球的規模の諸問題に忙殺されている。この様なグローバルな諸問題に対し日本はいかなる貢献をするのかが問われる。シリアやイラクの避難民に対する人道的支援などの支援のみなのか、人的貢献たとえば部隊の派遣はどうするのかなどが今後厳しく問われてくる。
 デニス・ブレア元米太平洋軍司令官は、産経新聞に「エボラ対策こそ自衛隊の本懐」という文章を寄稿し、「自衛隊は、米軍と共同統合任務部隊を編成することで、エボラ出血熱の蔓延と闘う国際的な取り組みに多大な貢献を果たすことが可能だ」と主張している。彼は、将来の日米防衛協力で「日米同盟のグローバルな性質」を重視しているとし、エボラ出血熱の蔓延は近年における深刻な人道的課題の一つであり、「まさにガイドラインが活用されるべき類の状況だ」と主張した。ブレアの様な主張が今後増加することが容易に予想される。グローバルな平和と安全のための協力には当然ながら犠牲も予想される。その犠牲に耐える覚悟が我が国特に自衛隊にあるか否かが今後問われることになる。

(3)インドの戦略的自律を学ぶ
 多くの日本人が日米同盟の重要性は認めながらも、時々感じる米国の独善性や価値観の押しつけを快く思っていないはずである。同盟の欠点は自らの行動や思考を拘束する点にある。米国の歴史が示すように、イラク戦争をはじめとする対テロ戦争を主導したブッシュ(ジュニア)元大統領の様に明らかに不適切な決定をする大統領もいる。その際に問われるのが日本の自律性である。米国に単に付き従うのではなく、自らの意思で自らの行動を決定する自律性が重要である。我が国の国益を中心として日米同盟を活用するという視点が不可欠だと思う。
 我々が生きている世界は、バランス・オブ・パワーに基づき動いている世界である。世界のパワー・バランスの中でいかに日本がしたたかに生き抜くかが問われている。日本の運命を決定するのは日本人自らであり、米国ではない。日本の防衛において日米同盟は要石ではあるが、「自らの国は自らが守るという態度」は国家として当然の態度であり、不可欠な態度である。この姿勢が欠如すると日米同盟そのものが機能しないであろう。その意味でインドの対外政策の基本にある戦略的自律は参考になる。
 安倍首相が推進してきた安全保障に関する諸施策には今後とも注目する必要がある。安倍首相の掲げる「積極的平和主義」の理想は高い。「積極的平和主義」で具体的に何をするのかが問われる。我が国の実力に合った(過度に背伸びしない)任務・役割は何なのか、戦略的自律の観点で「積極的平和主義」をいかに実現するかが問われている。

(4)グレーゾーン事態への対処は我が国独自の主体的な対処が原則
 日本側は、グレーゾーン事態への対処を重視して米国のコミットメントを要求するが、グレーゾーン事態への対処は我が国独自の主体的な対処が原則であることを銘肝すべきである。グレーゾーン事態は有事の事態ではない。平時の事態である。そもそも米軍には平時と戦時しかなく、グレーゾーンという概念はない。平時の事態に対し、米軍が関与するのは難しい。そして、無人の岩だらけの小さな島々(尖閣諸島)のために米軍は戦わないという意見が米国側に多いのも事実である。
 我が国にとって、グレーゾーンの事態において自らやるべきことを確実に実施する覚悟を持つことが何よりも大切である。そして、有事における自衛隊による南西の防衛が米国の国益(リバランス政策、Air Sea Battleの遂行など)にとっても極めて重要であることを米国に納得してもらうことも大切である。

(5)不動の同盟国について
 「日米共同ビジョン声明」において、日米両国の関係を「かつての敵対国が不動の同盟国(steadfast allies)になった」とし、「和解の力を示す模範になっている」とした。日米首脳会談の昂揚感の中での高らかな日米同盟に対する評価である。
 しかし大英帝国全盛期のヘンリー・ジョン・テンプル首相が、「英国には永遠の同盟国もなければ、永遠の敵対国もない。あるのは永遠の利害関係のみだ」と指摘したように、永遠の同盟国も永遠の敵対国もないのである。また、米国の国際政治学者ケネス・ウォルツが指摘しているように、「国家の目的は自国の存続にあり、自分の国は自ら守るしかない」のである。国際政治の冷厳さを示すこれらの金言をかみしめたい。

結言
 今回のガイドラインには「日本に対する武力攻撃の場合、自衛隊は、日本及びその周辺海空域並びに海空域の接近径路における防勢作戦を主体的に実施する。米国は、日本と緊密に調整し、適切な支援を行う」と記述されているが、この認識は極めて大切である。あくまでも日本防衛は我が国が主体的に実施するものであり、米国への過度の依存は不適切である。
 そして、我が国の主体的な意思に基づき「地域の及びグローバルな平和と安全のための協力」もなされるべきである。米国は、その国力の低下や国防費の削減を前提として日本に役割の拡大を求めてきている。大切なことは我が国の国力特に防衛力を冷静に至当に判断し、出来ることを実施していく、出来ないことは出来ないと明確に米国に伝える姿勢が重要なのであろう。
 日本にとっては、グレーゾーン事態をはじめとする日本防衛が焦点であるが、このグレーゾーン事態等の背後には常に中国が存在する。日米協議の最大の問題の一つは日米の対中脅威認識の違いであった。新ガイドラインをスタート地点とし、台頭する中国に如何に対処するのかを焦点に、日米同盟を進化し続けることが大切である。


* ガイドラインは、日米両国の役割・任務及び協力・調整の在り方について、一般的な大枠と政策的な方向性を示すもの
** 日米安全保障協議委員会(SCC)は、通商2プラス2と呼ばれ、メンバーは日本の外務大臣と防衛大臣、米国の国務長官と国防長官


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