平成27年9月20日

安全保障関連法案の成立を喜び、安倍政権にさらに期待する

一般社団法人日本戦略研究フォーラム会長  平林 博

 9月19日早朝、平和安全保障法制整備法案が国会において成立した。自衛隊法の改正、国際平和維持活動協力法(いわゆるPKO恒久法)、重要影響事態法、船舶検査活動法、武力攻撃事態法、及びその他の5法の一括改正ないし制定である。
 我が国に対する中国や北朝鮮からの脅威の増大や国際テロの頻発など、直接間接に我が国の平和や国民の安全を脅かす事態への対応において、ようやく時代と事態に即した法制が成立したのである。
 国論を二分し、産みの苦しみが大きかった一大事業であったが、長期的見地から我が国の辿るべき道を見据え、ぶれないでこれを成し遂げた政府と与党、及び最後に大局的見地から採択に協力した野党3党に対し、敬意を表したい。
 他方、その他の左派系野党や一部マスコミは、法案をどう改良するか、脅威にどう対応すべきかといった建設的な議論を避け、揚げ足取りやスタンドプレーに走った。法案が「戦争抑止法案」であるにもかかわらず、敢えて「戦争法案」などのレッテル貼りを行った。国会前などで派手なデモを行う人々が民意を代表するかのような言も行った。我が国は、代議制民主主義をとり、国民が選んだ国会議員が国の施策を決定する建前である。その国会が法案を採択したのであるから、政府や自衛隊はこれに従う必要がある。
 難産の子であるだけに、安保整備各法は大事に慎重に育てなければならない。安倍総理が法案成立後に語ったように、国民の理解を求める努力を倍加するべきであろう。もちろん、新たな法制にふさわしい安保体制を構築するために、予算配分の上で防衛力、海上保安力、警察力などについては特に優先させる必要があろう。

 安倍政権にとって、今後の最大の課題は経済だ。国民の関心は、中国経済の失速、その影響を受けた新興諸国の経済低迷、ギリシャや移民でふらつくEUなどから来る逆風に、政府はどう対応するかだ。踊り場にかかっている感のあるアベノミックスを立て直せるのか、政府は「第3の矢」である規制緩和・構造改革を、また日銀はさらなる金融緩和を行う覚悟があるのか、10%への消費税引き上げの際に公正な軽減税率が導入されるか、などの生活に直結する問題である。
 戦後70年安倍総理談話の国内外における高評価、安倍総理の自民党総裁の無投票再選、さらに困難を極めた安保法制整備法案の国会承認により、長期政権が見えてきた。長く続いた政治の「劣化のスパイラル」を脱し、国内的には大胆にかつ腰を据えて国民のための政治を行い、国際的には日本の地位を向上させる基盤ができた。
 中国、韓国、ロシア、北朝鮮といった問題ある諸国との関係は、強力で安定した政権でなければうまく運べない。特に、中国、ロシア、北朝鮮は、力の信奉者である。彼らは、こちらが強ければしかるべく歩み寄るが、弱ければ難しい話をする気はなく、また嵩にかかってくる傾向がある。この場合の力は、防衛力もさることながら、政権とくに首相の指導力を含めた政治力、経済力、国際的な発言力などである。また、その上に立った国民の強い支持である。
 間もなく、安倍総理は内閣改造、自民党役員の入れ替えを行う。我が国が長期安定政権を樹立し、国内的には「決める政治」を行うとともに、国際的にも重きを持つ国になるためには、重量感のある経験豊かな、そして人格的にも問題のない閣僚を揃えるべきである。女性や若手の活用も大事であるが、何よりも大事なのは強くて信頼のできる政権作りである。新閣僚の人事で足をすくわれることがあってはならない。

 秋は国連総会(9月下旬)、G20サミット(10月15,16日)、APEC首脳会議(11月18日、19日)、ASEAN関係首脳会議(11月20,21日)と首脳会議が続く。そのほか、日中韓首脳会議、中央アジア諸国訪問など、総理の外交日程は目白押しだ。意欲も能力もある安倍総理ではあるが、外から見ると健康が心配である。総理にも総理側近の人々にも、この点に対する自重を求めたい。邦家のためのささやかな注文である。



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