米国がついに動いた。横須賀基地所属のイージス駆逐艦「ラッセン」を南シナ海に派遣し、中国が自国の領海と主張するスービ礁とミスチーフ礁の12カイリ(約22km)内を示威航行させた。「航行の自由」作戦と銘打った。
中国は、南シナ海において、強大化する武力を背景に、国際法や海洋法を無視し無法行為を重ねてきた。この数年来、フィリピン、ベトナム、マレーシアなどの沿岸国が主権を主張してきたことを無視し、武力の威嚇を背景にスプラトリー(南沙)諸島やパラセル(西沙)諸島を強制占拠し、あまつさえいくつかの島や暗礁の上に建造物を建設してきた。中には港湾や滑走路もある。満潮時には水面下に沈む暗礁は、国際海洋法上は領土とはみなされないので、人工物を建設しても法的な正当性は得られない。
米国のオバマ政権は、東南アジア諸国の大きな懸念にもかかわらず、中国に対してはこれまで特段の行動を起こさなかった。中国の艦船がアラスカ沖の領海を通過したことに対しても行動しなかった。米国防総省や米国太平洋司令部などはしきりにオバマ大統領の行動を促していたのにも拘わらず、だ。
オバマ大統領の慎重姿勢は、中国をさらに勢いづけ、人工島や建造物の建設などを加速させた。しかし、ようやくオバマ大統領はコトの深刻さを理解したようだ。去る9月の習近平国家主席の訪米中にオバマ大統領は強い懸念を表明し中国の反省を促したが、ホワイトハウスでの共同記者会見では、オバマ大統領の警告に対し、習近平は傲然と南シナ海は「古来より」中国の支配地域だと応じた。
米国の行動に対し、フィリピンのアキノ大統領はいち早く歓迎の意を表明した。公式に発表するかどうかは別にして他の沿岸諸国も歓迎している。わが国も、安倍総理が外遊中のカザフスタンでの記者会見において「イージス艦の航行は国際法に則った行動であると理解する」と述べ、続いて中国を名指しはしなかったものの、「大規模な埋め立てなどで現状変更し、緊張を高めることは国際社会共通の懸念だ。日本としては、自由で平和な海を守るため、米国や国際社会と連携していく」と述べた。
中国の反発は予想された通りであった。外交部の報道官は「米国の行為は中国の主権と安全を脅かす」と非難し、「国際法に基づき米国軍艦に対して監視、追跡、警告を行った」と述べ、さらに、「周辺の海域と空域で厳密な監視を続け、必要に応じてすべての措置をとる」と述べた。
しかし、米国は、このような航行を今後も継続すると言明した。公海での航行の自由は、米国はもとより国際社会が守るべき確立したルールであり、国際交易にとって必須の規範である。わが国にとっても南シナ海は代替不可能なシーレーンであり、その自由通行は死活的な利益に関わる。世界の経済の重心が移りつつあるアジア太平洋特に東アジア諸国にとって、このことの重要性は強調しても強調し過ぎることはない。世界中の我々の通商相手国にとっても同じである。
中国特に習近平国家主席は、メンツを潰された。しかし、正義は米国にある。軍事力でも米国が圧倒的に優位にある。中国の脅しに対し、米国は屈しないであろう。望むらくは中国が米国や国際社会の声に耳を傾けることだが、そのまま引きさがるとも思えない。現在、中国においては共産党の重要会議(5中全会)が開催中である。今後の出方が注目される。
日本戦略研究フォーラムとしては、以上を背景に、日米などに張り巡らせたネットワークにより、見識ある有識者の見解を募った。
これらの見解は、順次このホームページに掲載して行くこととした。会員をはじめ国民各界の理解の深化に寄与できれば幸甚である。
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