【特別寄稿】
エボラの日本伝播の可能性
拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司
 10月27日、ロンドン発羽田行き全日空278便(日本時間15:55着)に乗っていた『ニューヨークタイムズ』のO記者(カナダ国籍)は、リベリアに約2ヶ月滞在していた。Oは、羽田空港の検疫所で37.8度の熱が出たとして、国立国際医療研究センター病院(新宿区)へ運ばれた。
 Oの血液は、武蔵村山市の国立感染症研究所に持ち込まれ、国内で初めてのエボラ出血熱(以下、エボラ)の検査が行われた。翌日、Oは陰性との結果が出て、日本中が安堵に包まれた。幸いにも、Oは平熱まで下がり、まもなく同病院を退院した。
 ところで、日本政府は、日本人や外国人が海外でエボラに感染し潜伏期間中に、帰国した場合、水際でくい止められるのだろうか。
 10月23日、早速、北朝鮮は、エボラ対策として、すべての観光客入国拒否を開始した。また、同国は入国した人を隔離、検疫している。
 一方、中国ではどうだろう。エボラウィルスを持った野性のサルや蝙蝠を食べるとエボラに罹ると言われている。しばしば中国人は蝙蝠を食すので、エボラに罹患する公算が小さくない。
 また、周知の如く、中国とアフリカは関係が密接である。中国人はアフリカに約100万人滞在しているという。ほとんどが、ビジネスのため、あるいは労働者としてアフリカへ赴く。逆に、広東省広州市には、アフリカ人が不法滞在者9割を含めて20〜30万人いるという。
 今度の西アフリカでのエボラ出血熱騒動で、現地にいた中国人は陸続と帰国した。8月23日以降10月21日までに、8,672人が中国に戻っている。どうやら5,437人はエボラの陰性だったが、残りの約3,000人は隔離されて経過観察となった。かかる状況下で、中国当局は、西アフリカからの帰国者には、3週間は家に滞在し、外出しないよう呼びかけている。
 折しも、広東省では、広州交易会が10月15日から11月4日まで、3期にわたり行われていた。白雲国際空港には、連日、外国客が降り立っていた。そのため、当地では厳重な警戒態勢が敷かれたのである。
 実は、今年8月、西アフリカにいた中国人医療関係者(医師7人、看護師1人)がエボラに罹患し、隔離されたという。ただし、続報がないため、その後、その8人がどうなったのかは確認できない。彼らが同地で死亡したのか、それとも、無事回復し、帰国を果たしたのか、わからないのである。
 10月22日、『ロシアの声』中国語版で、広東省でエボラ感染者が43人“陽性”だったと伝えた(『新華経済』<日本語版>も同様に伝えている)。だが、それは“誤報”だとして、記事はすぐに削除され、かつその43人は“陰性”だったと訂正している。
 本当に“誤報”ならば喜ばしい。だが、もしこれが“事実”ならば、事はあまりに重大だろう。近頃、日中関係がギクシャクしている。それにもかかわらず、富裕層である中国人旅行客の訪日が増えている。かりに、その中にエボラ潜伏期間中(2〜21日)の旅行客いたとしたら、我が国の空港や港湾でエボラ侵入を防ぐことは難しいに違いない。
 よく知られているように、中国政府には、SARS(重症急性呼吸器症候群)を一時秘匿した“過去”がある。その最初の症例は、2002年11月中旬、広東省で発生した。だが、翌年2月11日までの約3ヶ月間、中国政府は世界保健機関(WHO)に対して、その集団発生を報告しなかった。そして、4月2日、中国での集団感染がようやくSARSと確認されるに至った。
 また、2005年の鳥インフルエンザの際にも、中国政府は正確な罹患者数を出さず、数字を少なめに発表していた。したがって、北京の発表は信憑性に欠けるきらいがある。
 今回、11月にアジア太平洋経済協力会議(APEC)が北京で開催される。そのため、共産党が中国国内でのエボラ発症の事実を隠蔽している可能性が絶対ないとは言いきれない。
 かりに、中国国内でエボラ出血熱が発生したことが海外へ知れたら、APECは延期、または流れてしまうおそれがある。習近平政権はホスト国として、それだけは絶対に避けたいだろう。


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