先日、7月4日、台湾では馬英九政権(中国国民党。以下、国民党)が、新竹県の陸軍基地で「抗日戦争勝利70年」の軍事パレードを行った。国民党軍は日中戦争中、旧日本軍(以下、日本軍)と戦ったので、一見、当然のイベントのように見える。
ところが、日本統治下、台湾人も台湾原住民も共に「日本人」であり、軍人や軍属として日本軍と一緒に戦った。そして、戦死者は靖国神社に祀られている。したがって、台湾の人口の85%以上を占める台湾人・台湾原住民にとって「抗日戦争勝利70年」の軍事パレードはほとんど意味を持たない(ただし、一部の外省人<1949年以降、蒋介石と一緒に渡台した“在台中国人”およびその2世・3世>には、関係があるかもしれない)。
すでに10%程度の支持率しかない馬英九総統は、政権が“死に体”である。そのため、馬政権は軍事パレードや「慰安婦常設記念館」開設等の「反日カード」で、自らの求心力を高めようとしているのではないか。
一方、今年9月3日、北京で行われる予定の「抗日戦争と反ファシズム戦争勝利70周年」(以下、「抗日戦争勝利70周年」)のイベントも台湾の軍事パレード同様、面妖である。
周知の如く、日中戦争時、中国共産党は日本軍とはほとんど戦っていない(せいぜい1940年山西省・河北省で行われた「百団大戦」ぐらいか)。日本軍の"主敵"は国民党軍だったからである。今では、中国共産党は、あたかも自らが「抗日戦争」で日本軍と戦い、勝利したかのように主張している。
だが、正確には、米軍が日本軍を倒したのであって、そのため、最終的に、蒋介石率いる国民党が日中戦争に勝利する形となった。戦争中、八路軍(紅軍)が行っていた作戦は、国民党と日本軍を互いに戦わせることだった。そして、国民党が日本軍との戦いに疲弊した後、共産党は「国共内戦」に勝利し、中国大陸の覇権を握ったのである。
したがって、台湾海峡両岸の「抗日戦争勝利70(周)年」記念行事は両者ともに噴飯ものであろう。
私見だが、習近平政権が「抗日戦争勝利70周年」イベントを行う政治的背景には、習近平・王岐山「太子党」連合が推し進める「反腐敗運動」に進展が見られないことに起因するのではないか。
それは、元政治局常務委員(「チャイナ・ナイン」の一人)である周永康裁判の判決を見れば明らかだろう。今年6月11日、周永康に「無期懲役」という“極めて軽い判決”が言い渡されたのである。
一時、周永康の収賄総額は1.5〜1.6兆円と伝えられた(その他、国家権力乱用罪と6件の国家機密漏洩罪)。そのため、「死刑」ないしは「2年の執行猶予付き死刑」(死緩)は必至と見られていたのである。けれども、天津市第1中級人民法院は、周永康に対し「無期懲役」判決を下した。「反習・王連合」(江沢民率いる「上海閥」と胡錦濤率いる「共青団」)の強力な巻き返しがあったと考えられよう。
一方、現在、中国経済は2008年9月に起きた「リーマン・ショック」後よりも悪い状況に陥っている。それは、「中国版公定歩合」(中国人民銀行による預金・貸出金利。政府は景気が良ければ「公定歩合」を上げ、景気が悪ければそれを下げる)の推移を見れば、一目瞭然だろう。今年6月28日、習政権はついに1年〜5年モノ貸出金利を5.25%まで引き下げた。
「リーマン・ショック」直後の12月、当時の胡錦濤政権は、1〜3年モノ貸出金利を5.40%まで引き下げている(ちなみに、3〜5年モノ貸出金利は5.76%)。けれども、現時点の貸出金利はその時よりも低い。つまり、中国経済は、ここ約20年間で1番景気が悪いと考えられる。だからこそ、習近平政権は、アジアインフラ投資銀行(AIIB)や「一帯一路」の「新シルクロード構想」をぶち上げたのではないか。
ところで、昨年春頃、上海総合指数は2000ポイント前後で推移していた。しかし、昨年5月、不動産バブルがはじけて以来、昨秋から上海総合指数は瞬く間に値上がりを始めたのである。
株価は経済の先行指標である。実態経済が悪化しているにもかかわらず、株価は上昇の一途をたどった。そして、今年6月、ついに5000ポイントの大台を超えたのである。株バブルの到来である。
けれども、ここ3週間で、4000ポイントを切るほど、株価が暴落している。北京政府は株式市場にテコ入れしているようだが、今後、再び株式市場が活況を呈するかは疑問だろう。
我々は、このような派手な株価の動きに眼を奪われてはならない。「中国版公定歩合」こそが、中国経済の実態を知り得る確実な数字なのである。
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