今年8月4日付の米『ニューヨーク・タイムズ』紙によれば、オバマ政権は、令計劃の弟、令完成が米国に滞在できるよう身元を保証したという。令完成が米国にとどまれるかどうかは、今後、令計劃の裁判に大きく影響する。万が一、米政府が令完成を中国へ強制送還すれば、令計劃は厳しく断罪されるに違いない。
習近平政権は、逃亡した腐敗官僚や汚職ビジネスマン(主に贈賄)ら約100名のリストを米政府に提出し、彼らを中国側へ引渡すよう要求してきた。令完成は、その最上位にリストアップされているという。ただ、約60人がカナダへ再逃亡したと伝えられている。
令完成は、約2700点の国家機密と(習近平を含むという党最高幹部の)「セックス・ビデオ」を持って米国へ逃亡した。それを手引きしたのが、(兄の令計劃はもとより)江沢民の側近、曽慶紅だと言われる。
令完成はカルフォルニア州に約250万米ドル(約3億円以上)の大邸宅をNBAのバスケット選手から購入した。ちなみに、妻は李平という中央電視台(CCTV)のテレビキャスターである(令完成は李平と離婚し、グリーンカードを取得するために、米国籍を持った女性と偽装結婚したとの情報も一時流れていた)。
さて、今年6月、中国ハッカーが米国へサイバー攻撃を仕掛け、400万人以上の米連邦政府職員の個人情報を盗み出している。翌7月、さらに中国ハッカーは2150万人の政府機関職員・契約業者らの経歴情報を盗んだ。オバマ政権はこれらを中国共産党によるサイバー攻撃だと、ほぼ断定した。そこで、米政府は令完成に関する情報を小出しにして、北京を牽制しているのかもしれない。
今年9月、習近平国家主席が訪米予定である。共産党としては、その前に米国から令完成の引渡しを目指していたが、どうやらその願いは叶いそうもない。米政府にとって、やはり令完成が対中外交の「切り札」となった模様である。
ところで、胡錦濤の大番頭 令計劃(党中央弁公庁主任)はなぜ失脚するに至ったのだろうか。話は前後するが、その経緯を簡単に紹介したい。
時は3年以上前に遡る。2012年3月18日、令計劃の息子、令谷(23歳。北京大学の大学院生)が、交通事故を起こした。いわゆる「黒いフェラーリ事件」である。
その時、令計劃は、旧知の仲だった「チャイナ・ナイン」(政治局常務委員)の一人、周永康(上海閥)に事件の“もみ消し”を依頼したのである。
事件当日、令谷は北京のバーでチベット族の女性2人(共に25歳)と酒を飲んでいた。その後、令谷は数千万円もする黒いフェラーリにその女性2人(半裸?)を乗せ、事故を起こし、令谷は即死している(一説には、陳毅外相の孫 陳某によってブレーキが効かないよう、車に細工されたという)。同乗の女性2人は重傷を負い、その後1人は同年夏に死亡している。令計劃は義弟(妻 谷麗萍の弟 谷源旭)と友人(蔣潔敏)に頼み、口封じのため女子大生(?)の家族・遺族に対し、慰謝料総額6億円〜8億円を支払ったと言われる。
これが「黒いフェラーリ事件」の概要である。この事件がもとで、令計劃は失脚した。
一方、事件翌日、天地を揺るがす大事件が発生している。
同年3月19日、周永康(党中央政法委員会書記で、武装警察のトップ)と陳某の父(陳毅の息子)陳昊蘇らは武装警察を使い、胡錦濤や習近平に対するクーデターを起こそうと企てたという。周・陳らは、現トップと次期トップを亡き者にしようとしたのである。けれども、その計画を事前に察知した胡錦濤らは、(党幹部らが暮らす)中南海に人民解放軍を配備し武装警察が来るのを待った。
北京の天安門近くで、人民解放軍と武力警察が対峙するという光景は想像するだけでも異様である。結局、兵器で優る解放軍側がアッと言う間に武装警察を制圧したという(「3・19政変」)。
周永康らは人民解放軍に逮捕される寸前だった。ところがその時、江沢民が胡錦濤に電話し、周永康が“誤って”中南海に武装警察を送ってしまったと取りなしたという。胡錦濤にしても、事件が表面化してはまずいと思い、周永康らを許したと伝えられる(ただ、この事件が真実か否か、確かめる術がない)。
ちなみに、令計劃がこのクーデターに関与していたかどうか不明である。もし、令計劃が関わっていたとしたら、長年仕えていた胡錦濤に対する謀反となるだろう。
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