澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -21-
天津大爆発事故
政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年8月12日、午後11時22分(日本時間13日午後0時22分)頃、天津市浜海新区にある天津東疆保税瑞海国際物流有限公司の物流倉庫で1回目の爆発が起きた。爆薬のTNT(トリニトロトルエン)約3トン分だという。地震計によれば、マグニチュード2.3を記録している。その後、間もなく、2回目の大爆発が起きた。TNT約21トン分だと推計されている(24トン分説もある)。マグニチュード2.9だったという。
 ちなみに、瑞海国際物流公司が扱っていた商品は、同公司HPによれば以下の通りである。
第2類:圧縮ガス及び液化ガス(アルゴンガス、圧縮天然ガスなど)
第3類:可燃性液体(エチルメチルケトン、酢酸エチルなど)
第4類:可燃性固体、自然発火性物質、水反応可燃性物質(イオウ、硝酸セルロース、カーバイド、珪素カルシウム合金など)
第5類:酸化剤、有機過酸化物(硝酸カリウム、硝酸ナトリウムなど)
第6類:毒物(青酸ナトリウム、トルエンジイソシアネートなど)
第8、9類:腐食性物質、その他(蟻酸、リン酸、メチルスルホン酸、苛性ソーダ、硫化ソーダなど)
同倉庫には、シアン化物が数百トン保管されていたと伝えられている。

 現場近くに整然と並んでいた乗用車約1万台(現代・起亜が4000台、その他、トヨタ、ルノー、フォルクスワーゲン等)が黒焦げになった。他方、一部の建物が爆風で外壁だけが残り、まるで「映画のセット」のような廃墟と化している。現場周囲の日系企業(トヨタやイオン)も、爆風で店舗が破損した。
 その爆風で中心から周囲3〜4キロに建っているマンションの窓ガラスまで吹き飛んだ。すでに、中国当局によって、周囲3キロ以内の住民は避難するよう指示が出されている。現場には有害物質が滞留し、依然、危険な状況なのかもしれない(ちなみに人民解放軍の「核・生物・化学兵器専門部隊」まで出動している)。
 市民の死者数は不明である。爆発時の高熱のため、一瞬にして溶けてしまった人達もいる。他方、火災の通報を受けた消防隊員が現場に駆けつけ、消火活動に入った。だが、水反応可燃性物質が存在したので放水したのは間違いだったろう。おそらく爆発で数百人の隊員らが死傷したと見られる。
 中国当局は、例の如く、この大爆発に関しても内外のマスコミの取材を制限した。他方、日本のマスメディアは、いつも通り中国官製メディア(新華社等)の情報を一切の検証なしに垂れ流している。8月16日現在、死者数は106人だという。だが、素人が天津大爆発のビデオ・写真を見ても、死者数は最低でも1000人はくだらないと推察できよう。

 ところで、なぜ李国強首相がすぐに天津の爆発現場へ行かなかったのだろうか。大事件や災害が起きれば、普通、首相がすぐに現地へ飛ぶ(今年6月1日、湖北省荊州付近の揚子江で旅客船「東方之星」が沈没した際には、翌2日、李首相が早速現地入りし陣頭指揮を執った)。
 だが、今回は翌13日夜、李国強首相の代わりに、劉延東(副首相)が現地入りしている。その後、16日午後、ようやく李首相が現地に赴いた。
 おそらく、現在、北戴河で非公式会議が開かれているはずである。会議の方が大事なため、李首相は現地入りするどころではなかったのかもしれない。
 当然、会議では、天津の爆発事故も議論にのぼっているだろう。これが単なる事故としても、江沢民ら長老らは、習近平政権の責任を厳しく追及しているかもしれない。
 今の天津市トップは、黄興国で、習近平国家主席に近い人物である。「反腐敗運動」で辣腕をふるう習主席の政敵は山ほどいる。彼らの一部が事故を装い、大爆発を仕組んだとしても不思議ではない。つまりテロである。
 仮にそうだとすれば、@習近平に徹底して叩かれている「上海閥」、A同じく一部「反腐敗運動」で叩かれている「共青団」、B習政権に不満を持つ一部「太子党」によるテロかもしれない。また、習近平政権になって急に弾圧が強まったCウイグル族によるテロも考えられよう。
 あるいは、習近平主席が株式相場・為替相場混乱の責任を問われ、苦し紛れに、自ら天津の倉庫を爆発させた可能性もゼロではない。いわばD「自作自演」である。
 だが、一方、この物流会社は、政治局常務委員(「チャイナ・セブン」)の一人、張高麗(「上海閥」)の親戚が運営しているという報道もある。もしテロでなく単なる事故ならば、一体誰が責任を取るのだろうか。
 天津港は世界第4位の貿易港である。その中国屈指の主要港が機能していない。そうでなくても、中国の景気は後退している。成長が更に鈍化する公算が大きい。



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