2013年3月、第18回全人代で習近平体制が誕生した。それから2年半近く経つが、習体制はいくつもの矛盾を抱えている。
第1に、終わりなき「反腐敗運動」である。一体、いつ、この運動は終結するのだろうか。上はトップから下は庶民まで、中国全体が腐敗・汚職まみれである。今さら、強権的に腐敗・汚職をやめさせることはできないだろう。
翻って、そもそも習近平と王岐山に「反腐敗運動」を推進する資格があるのだろうか。習・王連合は「反腐敗運動」に名を借りて、恣意的に政敵を打倒しているに過ぎないのではないか。
習近平一族は外国籍を持ち、多額の海外資産を持つことはつとに知られる。他方、王岐山は北京市長時代、ビジネスマンの郭文貴(現在、海外へ逃亡中。令完成と同じように公安に追われている)と深い関係があった。また、王岐山は、「中国で最も危険な女」胡舒立と親密な関係を持っているという。ちなみに胡女史には私生児がいる。
これでは、泥棒が警察官の仮面を被って、泥棒を逮捕しているようなものだろう。
第2に、習近平政権は「法治」を掲げているが、実際は、まったく逆の「人治」を行っている。
習近平は法やルールを無視し、一身に権利を集中させ、「毛沢東政治」の復活を目指している。習は薄熙来が重慶市で行っていた「重慶モデル」(=「プチ文革」)を全国に拡大しただけに過ぎない。つまり習近平は「第2の文革」を開始したとも言える。
他方、習近平政権は今年7月から施行された新しい「国家安全法」で「人権派弁護士」を徹底して弾圧している(その契機になったのが、今年5月、黒竜江省で起きた「慶安事件」だろう)。また、習政権はネット監視の強化を図っている。今年8月、天津で起きた大爆発事故に関しても、当局の発表以外すべて「デマ」だと決めつけ、50のウェブサイトを閉鎖した。
第3に、習近平政権は、現在、景気が良くないのに、適切な経済政策を実施していない。
まず、習政権は「贅沢禁止令」を公布し、国内消費を萎縮させた。だから中国のアッパー・ミドル以上は海外で“爆買い”している。これでは経済の減速は不可避だろう。
次に、習近平政権は「新常態」(原則は“レッセ・フェール”)を謳っている。それにもかかわらず、今年6月、株式相場に介入した。同様に、習政権は8月には為替相場に介入し、人民元を元安へと誘導している。その為、世界の投資家が中国当局を信用できず、ますます外資が中国から逃避している。
一方、共産党は、2022年の北京冬季五輪招致を成功させた。実は北京にほとんど雪が降らないので、本来ならば降雨量が少ないが降雪が見られる東北3省(遼寧省大連市、吉林省長春市、黒竜江省ハルピン市等)で開催した方が理にかなっていよう。けれども、東北3省は「新四人組」の一人、徐才厚(「東北の虎」と呼ばれた。今年3月に病院で死亡)の地盤である。東北3省いずれかの市での冬季五輪開催では、習近平にとって“命がけ”となるに違いない。
また、習政権は2022年、杭州で開催するアジア競技大会に立候補した。北京冬季五輪同様、なりふり構わぬ公共投資による内需拡大政策である。
結局、中国共産党は、社会事象すべてを人為的にコントロールできると勘違いしているのではないか。かつてソ連邦時代、ゴスプラン(ソ連国家計画委員会)等が需要と供給を決めていた。人間がすべてを決められると考えたからである。しかし、人間は神でないので需要と供給が予測できるはずもない。結局ソ連は、初め、経済が変調をきたし、最後は体制そのものが崩壊したのである。
1979年の「改革・開放」以来、中国は高い経済成長を遂げてきた。その為、おそらく共産党は自分達が神になったつもりかもしれない。だが、人間は神には及ばない。マーケットという「神の見えざる手」を利用しなければ、経済が機能不全を起こすだろう。
すでに、中国のジニ係数(貧富の差を示す)は、2010年には0.61、2012年には0.73を超えた。フランス革命時、フランスのジニ係数は0.7だったと言われる。今の中国はとっくにその数字を超えた。つまり、いつ中国に革命が起きても不思議ではない。
既述の如く、今年8月12日深夜、天津の瑞海国際物流公司が謎の大爆発を起こした。これは不吉な兆候である。単なる事件かテロか未だ不明だが、この処理をめぐり、中国共産党内では更なる権力闘争が繰り広げられる公算が大きい。中国の未来は、決して明るくないだろう。
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