習近平政権は「反腐敗運動」にかまけて、経済政策は二の次である。また、「9・3大閲兵」などの記念式典に力を入れ、景気の落ち込みにブレーキをかけられていない。
現在、中国の株式市場の見通しは暗い。実態経済が悪いからである。
(1)習政権は「贅沢禁止令」で消費を冷え込ませた。そこで、アッパーミドルは、海外で「爆買い」している。
(2)中国国内の賃金が高騰した。2015年、北京・上海・深圳など大都市での最低賃金は、時給18〜18.7元(約342〜355円)である。外資は東南アジアやインド亜大陸へシフトしている。
(3)「チャイナ・リスク」が増大した。例えば、今年8月12日深夜の天津大爆発事故が起きた(未だ原因不明)。そのため、欧米日本系企業は撤退を余儀なくされている。
(4)中国の負債が膨大化した。@地方政府の負債増加(不動産価格下落による)、Aシャドー・バンキングの不良債権が増大(同)、B効率の悪い国有企業の民営化は困難(国有企業は人民解放軍と関係が深く、改革はままならない)、等で株価が上がる要因が見当たらない。
今後、中国の株バブルが弾けたら、日本や世界経済に与える影響は図りしれないだろう。
習近平政権は「新常態」を掲げながら、株価を支えるため一連の金融緩和政策を採った。(「中国版公定歩合」の)預金貸出金利の利下げや銀行の預金準備率の引き下げ、また、年金の原資一部を株の運用に充てている。
他方、当局は外貨準備高の一部を切り崩して、株式市場に投入しているという。
ここで、少し脇道にそれる。
2014年4月、中国銀行業監督管理委員会元主席だった劉明康が、中国外貨準備高(当時、全部で3兆9500億米ドル)の約半分1兆9750億米ドルが米国債であると明言した。ところが、同年3月の米財務省の資料によれば、中国の米国債保有額は1兆2610億米ドルである。したがって、7000億米ドルあまりが行先不明となっている。
その消えた米国債の行先として、@中国が「ノミニー」(法人登記の際、真のオーナーの個人情報を一切出すことなく法人登記が可能)を利用している―OD05オムニバス(中国の政府系ファンド)等―、A中国が海外のカストディ(投資家に代わって有価証券の管理機関)制度を利用―ベルギー・ブリュッセルにある「ユーロクリア」(国際決済機関)等―、B党・政府・国有企業幹部が自分のポケットに入れる(横領する)、などが考えられよう。
閑話休題。
さらに、中国当局は為替相場にまで介入し、人民元を切り下げた。管理フロート制(米ドルにペッグされた、事実上の固定相場制)にもかかわらず、勝手に為替を操作している。この程度の人民元切り下げでは、到底、輸出は伸びないだろう。
一番即効性のある景気対策は、財政出動して公共投資を行うことに尽きる。だが、習近平政権は、巨額な財政赤字(GDPの282%)を抱えているため、財政出動できない。
一般に、中国のGDPは日本の2倍程度と見なされている。しかし、この数字もきわめて怪しい。
GDPの伸び率と預金貸出金利の変動には相関関係がある。だが、過去25年間(1990年〜2015年)で、一定期間(特に1999年〜2010年)、中国のGDPと貸出金利が連動していないばかりか、かえって、その差が乖離するという不可解な現象が起きている。
おそらく中国共産党が毎年、公表するGDPに数%ほど水増してきたのではないか。ひょっとすると、目下、中国のGDPは日本とあまり変わらないかもしれない。
ところで、習近平政権の打ち出したアジア・インフラ投資銀行(AIIB)創設や「一帯一路」の「新シルクロード」構想は、外需を求める苦肉の策だった。だが、AIIBは他国から米ドルを集め、北京が自国の経済的苦境を乗り越えるために利用する目的だったことが知れている。
一方、習近平政権が打ち出した2022年北京冬季五輪招致は成功裏に終わった。だが、同年、習政権は杭州アジア競技会開催招致を申請している。よほど内需を喚起したいのだろう。
以上のように、習政権下で景気は上昇する気配がない。そこで、習近平は、経済失政の責任をすべて李克強に押し付けようとしているという。次期人事(19回全人代)では、李克強に代わりに、首相として韓正(「共青団」出身で、上海市トップ)の名前が挙がっている。今後、習近平の「太子党」と胡錦濤・李克強の「共青団」との間で、党内闘争が激化する可能性も否定できない。
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