澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -29-
習近平対江沢民の内戦が始まったか?
政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年9月3日、中国では「抗日戦勝70周年」の記念式典が催された。今年から、同日が祝日となったという。
 軍事パレードでは、初公開の新兵器が全体の84%にものぼった。特に、各種の東風(DF)は、短距離は台湾、中距離は日本全体、長距離は米国を射程にしたミサイルである。したがって、台湾・日本・米国へ軍事的圧力をかけるためのショーとも言える。
 さて、習近平政権は、なぜ焦って「軍事パレード」を行ったのだろうか。本来、10月1日の建国記念日に「軍事パレード」を行うのが普通である。今年は66周年で、4年後には建国70周年となるのだが、4年も前倒しされた式典となった。
 そのヒントは、当日、天安門の上に現れた人物にあるだろう。逮捕・軟禁されたとの噂が流れていた「最後の大トラ」江沢民と曽慶紅が登場したのである(李鵬の姿もあった)。たぶん北京市民のみならず、テレビを観ていた全国の視聴者も驚愕したに違いない。
 これは取りも直さず、習近平・王岐山連合の「反腐敗運動」が習近平の思惑通りに運んでいない証左だろう。だからこそ、習近平としては自らが人民解放軍のトップであり、巨大な軍事力を掌握している事を内外にアピールしたかったに相違ない。
 だが、未だ江沢民や曽慶紅が健在だとすれば、本当に習が軍を掌握しているのか大きな疑問符が付く。制服組トップの徐才厚(今年3月に死亡)と郭伯雄を失脚させても、未だ江沢民の威光が解放軍に燦然と輝いていると考えられる。つまり、習近平は「反腐敗運動」の行き詰まりや経済減速が著しいので、何らかのパフォーマンスで人々の目を誤魔化すしかなかったのではないか。それが、今回の「9・3大閲兵」式典だろう。

 周知の如く、民主主義を否定している中国共産党の“レゾン・デートル”は、経済発展のみである。経済発展しなければ、共産党の統治の正当性はない。
 ところが、現在、中国経済の先行きには、暗雲が垂れ込めている。輸出の低迷、外資の逃避、「株バブルの崩壊」、「不動産バブルの崩壊」は深刻である。
 一部のエコノミストは、中国の景気低迷は一時的なモノと楽観視している。だが、中国の歴史(「易姓革命」)や社会状況(「集団的騒乱事件」の多発等)から考えると、むしろ悲観的にならざるを得ない。
 例えば、今年8月12日深夜に起きた天津での大爆発(テロの可能性もあり)以来、化学工場が連続して爆発している。確かに、今年に入り何件かの工場爆発騒ぎはあった。
 けれども、「天津大爆発事故」以来、大事故が連続して頻繁している。事故ではなく、人為的なテロ行為だと考えざるを得ない(ちなみに、習近平政権は、跡地に「エコパーク」を建設する予定という。大事故の原因を突き止めることもなく、その形跡を消す模様である)。

8月12日、天津の「瑞海国際物流公司」で大爆発が起こる(当局は、死者数を160人近くと発表している。
      だが、死者は少なくても1,000人は下らないだろう)。
8月13日、遼寧省鞍山市でボイラー工場から爆発事故が発生(死傷者なし)。
8月16日、山東省青島市の天然ガス施設でも火災が発生。
8月22日、山東省淄博市の化学工場で爆発と火災発生(死者1人、負傷者9人)。
8月23日、江蘇省蘇州で化学工場が爆発。
8月24日、河南省鄭州で化学工場爆発。
8月26日、湖北省武漢市の化学工場が爆発。
8月31日、深夜、山東省東営市利津県の化学工場で爆発(死者13人、負傷者25人。
      「9・3大閲兵」式典のため、はじめ1人死亡と発表し、後から死者数を増やす)。
9月1日、甘粛省隴南市の花火工場で、午後2回の爆発(死者1人、負傷者6人)。

 さすがに、これほど化学工場の爆発が頻繁すると、安全管理の問題ではなく、中国国内が異常事態に陥っていると考えた方が自然である。特に山東省での爆発が多い。ちなみに、王岐山は山東省青島市の出身である(単なる偶然かもしれないが)。うがった見方をすれば、習近平対江沢民の“内戦”がついに開始されたとも考えられる。
 かかる状況下で行われた「抗日戦勝70周年」記念行事である。前日、習近平が一睡もできず、当日に臨んだというが、さもありなんと言える。ちなみに、当日の式典には、軍隊は一発の銃弾も装填せず、式に臨んだと伝えられている。また、習近平は式典ショーの航空機による自爆テロにも細心の注意を払っていたという。習が自らの暗殺を恐れてのことだろう。


 Ø バックナンバー  

  こちらをご覧ください
  

ホームへ戻る