今年9月4・5日、トルコ・アンカラでG20財務相・中央銀行総裁会議が開催された。中国の経済減速が世界中から注目されていた最中である。同国の楼継偉財政部長(大臣)が驚くべき発言を行った。
第1に、中国で株バブルが弾けたが、当局はバブルをコントロールしている。
第2に、中国経済は今後5年間、苦難が続く。もしかしたら10年かもしれない。
まず前者だが、株バブルが弾けたことは、世界中、誰の眼にも明らかである。これに対し、中国当局が株式市場に介入したことも、広く知られている。確かに、中国のマーケットは特殊であり、我々資本主義国のそれとは違う。だが、北京は本当にバブルをコントロールできるのだろうか。
本来、中国の株価は、せいぜい高く見積もっても2500ポイント前後ではないか。実際のところ、中国経済は上海総合指数2000ポイント程度の実力と見た方が良い。したがって、現在、3036ポイント(9月15日の前場終値)は実力以上と言えよう。おそらく当局の下支え(潤沢な外貨準備高を切り崩すなど)がなければ、たちまち2000ポイント台へ騰落するに違いない。
当面、習近平政権は、3000ポイントを死守するつもりかもしれない(9月末の習訪米までか)。だが、もし3000ポイントを割り込んだら、その次は2500ポイントを“不後退防衛線”とするのだろうか。これすら怪しい。
一方、後者は、中国共産党の本音を漏らしたと考えられる。今後、5年(ないしは10年)、景気の悪い状況が続くのは間違いない。景気を回復するためには、習近平政権は内需主導(特に個人消費)の経済へ転換を目指すべきだろう。けれども、内需主導への構造転換は容易ではない。
中国では社会保障(例えば、失業保険・疾病保険・年金等)が充実していないため、富裕層やアッパーミドル以外の庶民はいざという時のために貯金あるいは投資しているのである。
さて、現在の中国経済において、@過剰設備とA過剰在庫こそが解決しなければならない喫緊の課題である。
過剰設備に関して、おそらく海外へ活路を見出すほかに手はないだろう。習政権は、中国が主導権を握るアジア・インフラ投資銀行(AIIB)や「一帯一路」の「新シルクロード」構想を利用するかもしれない。
他方、過剰在庫については、共産党はダンピングをしても輸出するしかないだろう。他国には迷惑千万な話だが、中国にとっては「背に腹は代えられぬ」のである。
国内のマンションも在庫過多である。大半のマンションは富裕層の投資目的として建設されている。したがって、売値が半分とか3分の1の値にならない限り、中間層にはマンション購入をできないだろう。徐々にマンションが値崩れを起こしているが、多くの富裕層は売却せず“塩漬け”にしている。このままでは、それらのマンションに誰も住まないうちに、老朽化してしまうだろう。国有銀行にしても、シャドー・バンキング(影の銀行。ノン・バンク)にしても、マンションがたくさん売れ残れば、負債が重くのしかかるに違いない。
ところで、習近平政権は、「国有企業改革」(=「混合所有制」を採用。国有企業と民間企業とで相互に投資。特に、現在112社ある中央<国有>企業数を約40社までに減らす)を旗印に掲げてきた。
「第三次全国経済普査主要数拠公報」によれば、2013年末、登記されている国有企業は11.3万社あった。中国全体の法人数は820.8万社なので、国有企業数は数としては、全体の1.4%に過ぎない。ただし、「国進民退」(国有企業の伸長、民間企業の退潮)という言葉に代表されるように、特定の分野で国有企業が利益を独占している(例:資源・エネルギー・航空など)。
習近平政権は国有企業の民営化を簡単に実行できるとは思えない。人民解放軍が一部の国有企業を保有しているからである。例えば、中国凱利集団(軍総政治部系)、中国保利集団公司(総参裝備部系)、三九企業集団(総後勤部系)などである。解放軍こそが、江沢民政権以来、今日に至るまで共産党の力の源泉である。習政権がここにメスを入れるのはかなり困難だろう。中小の国有企業の民営化でお茶を濁すつもりではあるまいか。
同時に、多くの赤字を抱えている国有企業は“潜在的失業者”の受け皿となっている。仮に、習政権が中小の国有企業を民営化した場合、一部の労働者は解雇される。そのため、社会不安が更に増大するだろう。
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