かつて中国の公園では、朝早く中高年が集い、優雅に太極拳を舞っていた。その静かで美しい動作は見る者を惹きつけたものである。
しかし、近年の流行りは、中高年の女性を中心とした「広場舞」(広場ダンス)である。大都市から中小都市、それに、チベットや新疆ウイグルに至るまで全国で大流行しているという。
広場ならばどこでも多くの中高年が集まり、スピーカーから流れる大音響と共に、自由自在に踊りを舞う。見る者は圧倒されるだろう。朝・昼・晩、時間に関係なく一斉に大勢が踊る。無論、美容や健康に良いし、ストレス発散となる。
中国にはゆったりと楽しめる公共施設は多くない。そこで、「広場舞」を踊る人たちは、一定のスペースさえあれば、邪魔な車などを勝手に押しのけて、広場にしてしまうこともある。
ただ、夜10時頃まで大音量の中「広場舞」が踊られるので、近隣住民には大迷惑となっている。しばしば「広場舞」を楽しむ人達と近隣住民のトラブルが発生している。マンションに住む近隣住民は、窓からモノを投げたり、わざと猛犬を放したり、「広場舞」の人達に嫌がらせをするが、彼らにしてみれば一種の生活防衛策だろう。
中国当局は、人が多く集まると、ちょっとしたトラブルから大騒動が起こることもあるので神経を尖らせている。そのため、踊る曲を12曲に限定し、わざわざ指導員を送り込んでダンスの踊り方を指導している。あるいは、大きな音が周囲に漏れないよう、踊る人たちにイヤホーンをつけさせ、「広場舞」をさせている。だが、これでは彼らは満足できないだろう。
昨2014年、広東省広州市では、エリア・時間帯・音楽のボリュームを制限する条例を施行した。違反者には、最大で1000人民元(約1万9000円)の罰金が科される。
海外でも「広場舞」で中華系移民がトラブルを起こしている。2013年7月、米ニューヨーク・ブルックリン・サンセットパークで練習していた中華系住民のダンスチームが、周辺住民から苦情を受けた。通報で駆けつけた警察が女性リーダーに手錠をかけている。そのダンスチームは現地の華人社会では有名で、華人向けイベントの際には必ず登場するという。翌8月、手錠をかけられた女性リーダーは裁判所に出廷し、「周辺住民や警察が“過剰反応で差別的だ”」と訴えている。
中国共産党は「広場舞」に何かしら“危険な匂い”を感じているのではないだろうか。この「広場舞」は、見方を変えれば、中国版「ええじゃないか」に転化する可能性を秘めている。
周知のように、幕末、1867年夏から年末にかけて、近畿・四国・東海などで「ええじゃないか」と乱舞する人びとが出現した。空から神符が降ってくるのは、慶事の現れとして人びとは仮装して町々を踊りながらまわった。
例えば、四国・阿波国では「日本の世直しはええじゃないか、ほうねんおどりはお目出たい、ええじゃないか、ええじゃないか」と謡われた。「世直し」の囃子言葉「ええじゃないか」を連呼したので、討幕の志士が仕掛け人とも言われるが定かではない。
中国全国での「広場舞」が、いつしか中国版「ええじゃないか」に転じないとも限らない。そして、大暴動に発展する恐れもある。中国共産党はそれを危惧しているのではないだろうか。
ところで、今年9月9日、王岐山が外国人客と会見した際、中国共産党の統治の「正当性」について言及している。
改めて言うまでもなく、中国共産党は、政治的に基層レベル(例えば村長等)での選挙は別にして、市・県・省レベル、さらにそれ以上、国のトップに至るまで、政権奪取した1949年以降66年間、未だ選挙を一度も行ったことがない。
したがって、共産党統治の「正当性」は経済発展のみだった。その成長ができないならば、共産党統治の「正当性」は失われる。経済成長に急ブレーキがかかった今、共産党には統治の「正当性」がなくなったと言っても過言ではない。
今年9月9日、それにもかかわらず、李克強首相が苦し紛れに、今年の経済成長率7%を達成できると公言している。だが、ここまで景気が悪化すると、共産党に成長のための妙手があるとも思えない。
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