今年9月22日から25日までの習近平国家主席訪米は中国の威光を内外に知らしめる絶好の機会だった。中国共産党にしてみれば、同月3日の「抗日戦勝70周年」(「9・3大閲兵」)式典に続く、大イベントである。
太平洋を挟んで、東側には、下り坂にあるとはいえ未だ世界最強の米国、西側には、昇竜の如く現れた新興国の中国、その両首脳会談である。当然、世界の耳目を集めるはずだった。
ところが、習近平主席訪米はローマ教皇フランシスコ(以下、法王、あるいは、ローマ法王)訪米と重なった。中国共産党は、習主席訪米時期とローマ法王訪米時期が重ならないように、再三、米国側へ求めていた。ローマ法王の訪米にスポットライトが当たり、習主席のそれが霞んでしまう恐れがあったからだろう。だが、それが現実になっている。
オバマ政権は、ローマ法王の訪米を優先した。アルゼンチン・ブエノスアイレス出身(南米初)のローマ法王が、米国とキューバの国交回復の仲裁役を果たしたからである。任期が残り少ないオバマ大統領としては、54年ぶりのキューバとの国交回復で“レガシー”作りを図った。法王のお陰で、それが実現したのである。
そこで、オバマ政権は、9月22日からのローマ法王訪米を歓迎した。大統領だけでなく、ミッシェル夫人ら家族、それにバイデン副大統領もワシントン郊外アンドルーズ空軍基地で出迎えている。異例の歓待ぶりだろう。翌23日、オバマ大統領はローマ法王と会談した。翌24日、法王は米連邦議会での演説を行っている。だが、習近平にはその機会が与えられなかった。
習近平は9月23日、「アリババ」の馬雲(ジャック・マー)や「百度」の李彦宏(ロビン・リー)らを引き連れてシアトル入りし、米財界人と会談している。そこには「Facebook」のマーク・ザッカーバーグなどの姿もあった。習近平としては米国からの投資を呼びかけるつもりだった。現在、深刻な「キャピタル・フライト」が起きているからである。その中で習近平は、米ボーイング社から旅客機300機(約4.5兆円相当)を購入すると発表した。
同25日、ようやくオバマ・習近平会談が行われた。事前に@中国軍のサイバー攻撃問題、A東シナ海・南シナ海での中国軍膨張問題、B中国国内の人権問題、C人民元切り下げ問題などが話し合われると予想されていた。結局、首脳会談では、両国はお互いサイバー攻撃で企業情報を窃取しないことで合意している(他は両国の主張に開きがあり、合意が得られなかったと思われる)。
習近平としては、米国へ逃亡した令完成(その交換条件として、共産党は@令一族が米国に保有する約6億ドル資産放棄、A米国にいる2万5千人<全体の約半数>の中国人不法滞在者の帰国を受け容れる)等の要注意人物を逮捕・帰国させたかったに違いない(今のところ、この件に関しての情報はない)。
実は、米マスコミも習近平主席の訪米ついては冷淡であった。愛や希望を説くローマ法王に比べ、習近平は国内で人権を蹂躙する、あるいは少数民族や宗教者を弾圧する独裁者だからである。
2013年にローマ法王に就任したフランシスコは、“進歩的”な考えの持ち主であり、かつ、それを率直に口にした(グローバル資本主義を批判したり、地球温暖化・環境問題で警鐘を鳴らしたりするなど)。したがって、米国民の中にはカトリック教徒でなくても、ローマ法王を崇拝している人も少なくない。また米国のアイルランド系・イタリア系・ポーランド系、およびヒスパニック系住民はカトリック教徒であるので、少なくとも国民の20%以上がカトリック教を信じている。9月23日、ホワイトハウス周辺でのパレードで、フランシスコは数千人の米国民から大歓迎を受けた。
一方、中国共産党は米国政府側に習主席に対するデモ対策を要請していた。だが、同月25日、オバマ・習近平会談後、習主席の車列に“陳情者”が飛び出し直訴を敢行している。また、ファーストレディ 彭麗媛の車列にも“陳情者”が直訴する一幕があった。
周知のように、バチカン市国はヨーロッパで唯一台湾との国交があり、中国とは国交がない。数年前から「バチカンは台湾との国交を断絶し、中国との国交を樹立するのではないか」という噂が流れていた。バチカンとしては、できれば中国と国交を樹立し、同国内のカトリック教徒(信者は約1.2億人という)に対する宗教の自由を保障してもらいたいだろう。
しかし、依然、両国間で国交は結ばれていない。習政権による「家庭教会」等の非公認のカトリック教会への弾圧(十字架を破壊)が災いしているのかもしれない。
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