今年、国慶節(10月1日)前日の9月30日、広西チワン族自治区柳州市柳城県(人口約42万人)で大爆発事件が起きた。当日午後3時15分から5時30分にかけて17回連続して爆発した。さらに翌1日午前8時、もう1回爆発が起きた。計18回である。
大爆発と言えば、今年8月12日深夜に起きた「天津大爆発」事故(事件?)が記憶に新しい。その後2ヵ月も経たないうちに、沿海部を中心に10回の(主に)化学工場での爆発が生じた。「反腐敗運動」を展開する習近平政権に対する“組織的テロ”だと思われる。習政権に不満を持つ「上海閥」(「共青団」も?)が起こしたのか。
今回の柳城県連続爆発事件では、死者10人、負傷者51人が出た。その爆発地点が、駅・役所・病院・監獄・マーケット・ショッピングモール等の各種公共施設なので、「上海閥」の仕業か、それとも宗教的弾圧に苦しむウイグル族による“組織的テロ”と思われた。爆発物は、全部で70個以上の(ミルク缶を含む)小包で届けられ、それらは開封すると同時に爆発する仕組みになっていた。なお、時限爆弾が仕掛けられていた小包もあったという。
中国当局は、すぐに採石場爆薬管理員の韋銀勇(33歳のチワン族)を容疑者だと断定した(この夏に起きた「天津大爆発」に関しては、未だ原因不明である。容疑者は誰も特定されていない。逮捕されたのは、管理責任者等だった)。韋の妻(採石場保安員)の父親は採石場の爆破員である。従って、韋銀勇は爆薬の知識が豊富だったと考えられよう。確かに韋による犯行の公算が大きい。だが、依然、「上海閥」やウイグル族による“組織的犯行”の可能性も排除できない。
10月2日、地元公安当局は韋銀勇が爆発で死亡(DNA鑑定の結果)したと発表している。うがった見方をすれば、韋は警察に消されたかもしれず、当局が早い幕引きを図った可能性もある。
実は、事件以前の2013年7月30日、韋銀勇はインターネット上で「無奈的眼神」(“やるせない眼差し”という意味か)とのハンドルネームで「もうすぐ私が人を殺す時がやって来る。現地政府が私を死へと追い詰める」と書き込み、柳城県公安局に逮捕されていた(今度の事件直前、韋銀勇はQQ空間や携帯のショート・メールで殺人を予告していたという)。逮捕当時、韋銀勇は何かの理由で柳城県政府に脅されていた恐れもある。あるいは、韋が精神的に病んでおり単なる妄想での思い込みだったのかもしれない。
今回、韋銀勇は2年前に逮捕された報復で犯行に及んだのだろうか。仮に当局の発表が正しいとすれば、個人的恨みによる“テロ事件”と考えられよう。
この爆発事件は、2011年江西省での事件、2012年雲南省での事件、2013年福建省での事件を想起させる。
2011年5月26日、江西省撫州市に住む銭明奇(52歳)は政府機関を爆破した。銭は当局による住居立ち退きへの補償が少なかったので不満を抱いており、10年間に亘って陳情を続けたが無駄だった。そこで銭は、撫州市検察院、臨川区政府、薬品監督管理局の政府関連ビルの3ヶ所で爆発物を爆破させた。容疑者を含む3人が死亡し、9人が負傷している。
翌12年5月10日、雲南省昭通市巧家県で、ケ徳勇(43歳女性)が強制土地収用や家屋の取り壊しへの補償に不満を持ち、県政府オフィスビル内で自爆した。ケと県側との話し合いの席での出来事だったという。3人が死亡(容疑者と政府関係部門2人)し、14人(16人の説もある)が負傷している。
さらに翌13年6月7日、「アモイバス火災事件」が起きた。福建省厦門市に住む陳水総(59歳)は、当局が陳の年齢を間違えて登録していたので社会保障を受けることができなかった。陳は公安当局に何度も年齢の訂正を求めたが、当局は陳の要求を受け入れなかったのである。その為、陳水総は厦門高速バス内で用意した爆発物を爆破させた。容疑者を含む47人が死亡し、34人が負傷している。
言うまでもなく、中国では「三権分立」が確立していない。庶民が当局を訴える訴訟を起こしたとしても、政府も検察側(公安)も裁判所も全てがグルではまったく勝ち目はない。一党独裁の弊害である。
このような社会システム下では、ほとんど「社会正義」が実現されない。力の弱い者は、踏みつけられても泣き寝入りするしかないだろう。あるいは、銭明奇・ケ徳勇・陳水総・韋銀勇(?)のように、自爆覚悟の“テロ事件”を起こすことによって当局へ抗議の意志を示すかのどちらかしかない。
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