今年10月に入り、中国国民党は突如、来年1月の総統選の洪秀柱総統候補を朱立倫主席にすげ替えようとしている。
表向きの理由は、次期総統選で、洪秀柱の敗北がほぼ間違いないからだという。確かに、各種世論調査で、洪秀柱は民進党の蔡英文総統候補にダブルスコアの大差をつけられている。
最近、朱立倫主席と洪秀柱候補で3度話し合いが持たれた。朱主席としては、洪候補に自ら総統候補を辞退して欲しいのだが、洪秀柱は頑として譲る気配がない。
客観的には、洪候補側に理がある。なぜなら、洪秀柱は今年7月の国民党大会で正式な手続きを経て、総統候補に承認されたのである。今更、朱立倫が洪におりて欲しいと言っても、遅きに失している。
今春の時点で、朱立倫主席は「負け戦」とわかっていても、次期総統選の総統候補として立つべきだった。ところが、朱は敗退屈辱を嫌って、はっきりと総統選出馬を断っている。
民主主義的手続き上、朱立倫が今頃になって洪秀柱に出馬断念を迫るのは、どう考えてもおかしい。しかし、所詮“何でもあり”の台湾である。
さて、なぜ洪秀柱は人気がないのだろうか。国民党の党是は「一中各表」(「一つの中国」を中台が別に表明する。中国側は「一つの中国」を中華人民共和国とし、台湾側はそれを中華民国とする)である。だが、それとは違って、洪は共産党の「一中同表」(「一つの中国」とは中華人民共和国)に同調したからである。また、洪は、馬英九総統同様、「究極統一」(最終的な「中台統一」)を表明している。
洪秀柱の主張は、多くの外省人(在台中国人。台湾人口の13〜14%)の考え方を代表している。だが、大半の本省人(台湾人)には受け入れ難いだろう。台湾の“主流民意”は海峡両岸の「現状維持」ないしは「台湾独立」だからである。
なお、中国共産党は、1949年以降、1日たりとも台湾本島を統治してはいない。したがって、台湾は実質的な“独立国家”と考えられよう。国際法上はともかく、現実として「台湾独立」は“言葉遊び”に過ぎない。
10月7日、国民党中央常務委員会で、同17日に臨時全国代表大会開催を決定した。そこで次期総統候補を決定する。ちなみに、同7日、「洪支持派」の一部国民党員が同党の建物の外で「洪秀柱を支持する」・「朱立倫辞めろ」とシュプレヒコールをあげた。
実は、朱立倫ら国民党主流派による「洪おろし」の狙いは、もはや「負け戦」の総統選にあるのではない。同時に行われる立法委員選挙で、国民党候補の苦戦挽回が主眼だと思われる。
もしも、このまま洪秀柱が総統候補として総統選へ突入すれば、立法委員選挙で国民党が大敗するかもしれない(113議席の立法院では57議席が過半数。現時点では、30〜40程度の議席獲得と予想されている)。朱立倫ら国民党幹部はそれを危惧しているのだろう。実際、洪秀柱が国民党の立法委員候補を応援しても、聴衆が集まらないのである。朱立倫ならば、もう少し聴衆を集めることが可能だろう。
1949年、国民党が渡台して以来、立法院では未だかつて国民党系が少数派に転落したことはない。民進党の陳水扁政権時(2000年〜2008年)も、野党・国民党系が立法院で多数派を形成していた。だから、与党・民進党は政権運営に苦労したのである。
しかし、今度ばかりは、民進党系が立法院で過半数を獲得する勢いである。そのため、国民党としては、次期総統選を「朱洪ペア」(「朱立倫総統候補、洪秀柱副総統候補」で臨みたいところだろう。
17日の臨時大会で、一体、どのような結論が出るのだろうか。おそらく、朱立倫ら主流が洪秀柱ら非主流派を多数決で押し切る公算が大きい。その時、洪秀柱らが党を割って新しい党を結党するのか、それとも洪が党の重要ポストを得る等で矛を収めるのか、予断を許さない。総統選・立法委員選まであと3ヶ月あまりである。与党・国民党がこのような混乱状態では、民進党や親民党に足元をすくわれかねないだろう。
今回の国民党内紛で、宋楚瑜が来年の総統選に立候補した意味がようやく出てきた。仮に、立法院で民進党系と国民党系の間で議席が拮抗した場合、親民党がキャスティングボードを握る可能性もある。
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