今年10月10日、北朝鮮平壌市金日成広場では、「朝鮮労働党創建70周年」記念行事が行われた。金正恩第一書記は約25分にわたる演説を行い、その中で「人民」という言葉を数十回も使用した。
同時に、華やかな軍事パレードも行われている。新型300ミリロケット砲「KN09」(最大射程距離200q)や改良型大陸間弾道ミサイル(ICBM)等も登場した。北朝鮮は、この式典に14億米ドル(約1680億円)かけたと見られる。
中国からは誰がその行事に参加するのかが注目されていた。2013年7月の「朝鮮戦争休戦60周年」記念行事には、「共青団」の李源潮国家副主席が訪朝した。2年前同様、今回も習近平政権は李源潮を訪朝させる予定だった。ところが、北朝鮮側が李源潮訪朝を拒否し、劉雲山政治局常務委員(ナンバー5)の訪朝を要請したという。劉雲山は江沢民率いる「上海閥」の一人であり、「上海閥」は北朝鮮と関係が深い。
実際、金正恩書記は満面の笑みを浮かべて劉雲山を歓迎した。両者の関係がいかに親密であるかを表す象徴的な光景である。李源潮副主席が訪朝していたら、このような和んだ雰囲気とならなかったに違いない。
おそらく習近平は金正恩に好感を持っていないと思われる。正恩は一度も北京へ挨拶に行っていないからである(他方、韓国の朴槿恵大統領は習近平国家主席就任後、まもなく訪中した)。また、金正恩は依然、核実験やミサイル試射で、(表面的には)米国や日韓を脅かしている。そのため、北朝鮮が東アジアにおける不安定要因の一つとなっている。したがって、北京政府は金正恩に対し苦々しく思っていることは間違いないだろう。
あくまでも「仮説」だが、我々はかねてから中国人民解放軍瀋陽軍区が北朝鮮をバックアップしていると指摘してきた(ひょっとすると、事実上、瀋陽軍区が北朝鮮をコントロールしているかもしれない)。
実は、現在、「太子党」主導の北京政府と「上海閥」系の瀋陽軍区は折り合いが悪い。両者は対立していると言っても過言ではないだろう。一説によれば、瀋陽軍区は国防費のうち約20%を得ているという。仮に、7大軍区に軍事予算を等しく分ければ、1軍区当たり、約14.3%のはずである。いかに瀋陽軍区が巨額な軍事費を獲得しているのかがわかる。
周知のように、共産党の力の源泉は解放軍による。軍の支持がなければ、党の政治権力はゼロに等しい。
「天安門事件」後、軍歴のない江沢民は総書記に就任して以来、“カネ”と“ポスト”で軍を手懐けたのではないだろうか(なお、江沢民時代に解放軍によるビジネスは禁止された。だが、軍は一部の国有企業をがっちり押さえている)。
胡錦濤・習近平も、江沢民と同様だと考えられる。そのため、1989年以来、ほとんど毎年、軍事費は2桁の伸びを示した。一方、その頃から共産党の腐敗・汚職が著しく昂進している。
ところで、習近平は、自分の出身母体である「太子党」出身の軍人しか信用できないだろう(例えば、劉少奇の息子 劉源)。そこで、習は「9・3大閲兵」後、軍の再編を唱えた。そして、北京軍区と瀋陽軍区とを合併して「東北戦区」とし、北京政府が直接、同戦区を支配下に置くつもりである。
瀋陽軍区は「上海閥」の江沢民・周永康(無期懲役)・薄熙来(同)・徐才厚(死亡)・郭伯雄(起訴済み)などと深い関わりがある。習近平政権は「反腐敗運動」で、「上海閥」を主なターゲットとしている。
昨2014年に失脚した中央軍事委員会副主席の徐才厚は、瀋陽軍区を掌握していた。同年3月1日、徐の失脚を目前にして、業を煮やした部下の王旭東(同軍区39軍115師団装甲団)らは、クーデターを起こしている。けれども、「反クーデター派」の張書国(当時の115師団政治委員)に阻止され、王旭東らの「3・1クーデター」は未遂に終わった。結局、同年6月、徐才厚は党籍を剥奪され、起訴された。そして、今年3月15日、徐は北京の301病院で膀胱癌による多臓器不全で死亡している(暗殺説もある)。
今後、習近平主席が「東北戦区」を通じて「瀋陽軍区」を掌握し、北朝鮮に対して影響力を行使できるかどうか注視したい。
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