2012年12月、安倍晋三首相は英文で「アジアの民主主義セキュリティ・ダイアモンド」構想を発表した。その中で、安倍首相は南シナ海が「北京の海」になりつつあるが、それを阻止するためには、「オーストラリア・インド・日本・米国ハワイで、インド洋から西太平洋にかけて海洋権益を保護するダイアモンドを形成」したいと主張している。
この構想は、兵法三十六計の「遠交近攻」にあたる。その趣旨は、我が国は中国や韓国に対し一定の距離を置く。だが一方、米国はもとよりインド・オーストラリアと密接に連携する。いわば、「中国封じ込め」政策である。
オーストラリアでは、2013年9月以降、日豪関係重視のトニー・アボット与党・自由党党首が首相を務めていた。ところが、今年9月中旬、「親中派」と見られるマルコム・ターンブルが新しい同党首となり、新首相に就任した。そこで、今後、安倍首相の「セキュリティ・ダイアモンド」構想が実現できるかどうか微妙である。
今春、中国が肝煎りで立ち上げたAIIB(アジア・インフラ投資銀行)に日米は原メンバーとして加盟しなかった(G7としては、英国が米国の反対を押し切って、1番先にAIIBに加盟申請している)。同銀行は、中国が自国発展のため及び国際的影響力を増大するための機関としての色合いが強い。
問題はAIIBがどれだけ透明性が保たれるかだろう。中国共産党はしばしば国内のデータ・事件を隠したがる。また、AIIB(法定資本金は1千億米ドル)には中国が1番多く出資(中国の出資額は297億8040万米ドルで総額の30.3%)したので、中国の議決権は全体の25%以上となった。
同銀行で案件を決めるためには、各国の議決権合計が75%以上必要となる。つまり、中国は事実上、各案件に対し“拒否権”を持つ。
さて、今年5月、米国は南シナ海で巡回哨戒活動を開始した。これに対し、中国は猛抗議を行った。一方、ベトナムやフィリピンなど一部のASEAN諸国は、同海域での米軍巡回哨戒を歓迎している。
特に、ベトナムは西沙諸島(パラセル諸島)で中国と一触即発の状態にある。また、フィリピンとしては、南沙諸島(スプラトリー諸島)で中国軍がファイアリー・クロス礁(永暑礁)に人口島を造成し、3000m級の滑走路を建設している。米国としては、中国の膨張を看過できないだろう。
ところで、今年9月22日、習近平国家主席は国賓として訪米した。そして、中国側は米国と共に「新型大国関係」構築を模索する予定だった。
しかし、同時期に、ローマ法王フランシスコが訪米している。今年7月、米国はキューバと54年ぶりに国交を回復したが、その仲介役を務めたのがローマ法王である。そのため、オバマ大統領や米市民は法王を大歓迎した。
ワシントンは故意にローマ法王と習主席の訪米時期が重なるように仕組んだのであろう。本来ならば、中国にとって習主席訪米という大イベントが、法王によってほとんど霞んでしまった。結果的に、ワシントンは習主席を“冷遇”したことになる。
おそらく、オバマ大統領は令完成(胡錦濤の側近、令計劃の弟)が米国へ逃亡の際に持ち込んだ約2700点の中国の国家機密(および党最高幹部の「セックスビデオ」)を入手したため、習近平主席に対し、強気な態度に出たのではないかと思われる。
周知の如く、今年10月5日、我が国を含む参加12ヶ国間で、ようやくTPP(環太平洋パートナーシップ)が大筋合意された。大筋合意後、オバマ米大統領は「中国のような国に世界経済のルールを書かせることはできない」と言明している。つまり、TPPは基本的に“中国外し”とみなすことができよう(韓国はすでに米国とのFTAを行っているが、TPPへの参加も検討し始めた)。
今年10月19日、習近平主席は英国を訪問する予定である。既述の通り、中国は米国との「新型大国関係」構築は上手く行かなかった。そこで、習政権は「遠交近攻」を実践する。近隣の日本やASEAN諸国等に対しては高圧的な態度で臨むが、一方では、中英関係を深化させようとしている。
安全保障上、キャメロン政権も中国との関係が緊密化しても何ら問題はない。我が国と異なり、中国が英国に攻め込む可能性はゼロに等しいからである。
この点に関しては、ドイツもイギリスと状況はまったく同じと言えよう。ちなみに、ドイツは戦前、中国(当時は中華民国)と関係が深く、軍事顧問団を中国へ送っていた経緯がある。
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