今年10月16日、習近平主席は、北京で開かれた貧困救済関連の国際会議で、国内7000万人余りの「貧困層」(年収が2300人民元<約4万3000円>以下)を今後5年間、2020年までに一掃すると宣言した。
この年収は、1日あたりにすると約118円で、およそ1米ドルとなる。国連の基準からすれば「絶対的貧困層」(1日あたり1.25米ドル=約150円)“以下”に相当しよう。依然、中国には「貧困層」が少なくない。
同国では、1日あたり1米ドルで暮らす7000万人余および1日あたり1〜1.25米ドルで生活する人々を併せれば、1億人前後の「絶対的貧困層」が存在するのではないか。
2015年7月、「ピュー・リサーチ・センター」の報告書が発表された。同センターの定義では、1日あたりの生活費が2ドル以下(年収約8万7600円)を「貧困層」、1日あたり2〜10米ドル(年収約8万7600円〜43万8000円)の収入の人々を「低所得層」、1日あたり10〜20ドル(年収約43万8000円〜87万6000円)を「中所得層」と分類している。また、1日あたりの生活費が20〜50ドル(年収約87万6000円〜219万円)の人々を「アッパー・ミドル」(「中流上位」)、1日あたりが50ドル(年収約219万円以上)を「高所得層」と定義付けている。
仮に、中国の人口を14億人としよう(実際は不明)。同報告書(2011年時点)では、中国における「貧困層」は総人口の12%なので、1億6800万人と計算できる。「低所得層」は66%で、9億2400万人にのぼる。「貧困層」と「低所得層」を合計すると、10億9200万人に達する。
「中所得層」は総人口の18%で、2億5200万人である。「アッパー・ミドル」は4%なので、5600万人となる。来日して「爆買い」(主に薬や電化製品等)に走るのは、主にこの「アッパー・ミドル」ではないだろうか。「高所得層」は1%で、1400万人に過ぎない。この「高所得層」は、しばしば子弟を留学させ、海外に不動産を持っている人々だと思われる。すでに、グリーンカードのような永住権や外国籍を取得している場合もあるだろう。
一般に、「経済ピラミッドの最下層」(Base/Bottom of <Economic> Pyramid=BOP)は年間所得3000米ドル(約36万円)未満とされる。「ピュー・リサーチ・センター」の定義だと、中国の場合、「貧困層」(年間所得730米ドル<約8万7600円>)と大半の「低所得層」(同730米ドル<約8万7600円>〜3650米ドル<約43万8000円>)がここに含まれる。
さて、2015年、米ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)が発表した「グローバル ウェルス・レポート」を紹介したい。2014年、100万米ドル(約1億2000万円)を超える個人資産を持つ「富裕世帯」は世界で1700万世帯に達し(2013年は1500万世帯)、世界の家計金融資産は164兆米ドルにのぼるという。
「富裕世帯」数で世界1位は米国で約700万世帯、第2位は中国で約400万世帯、第3位は日本の約100万世帯となっている。
一方、世帯比で言えば、スイスが1000世帯中、135が「富裕世帯」である。スイスに次ぎ、バーレーン(123世帯/1000世帯)、カタール(116世帯/同)、シンガポール(107世帯/同)、クエート(99世帯/同)、香港(94世帯/同)の順である。
スイスの場合、7.4世帯に1世帯が100万米ドル以上の資産を持っている。
アジアでは、シンガポールと香港の両都市で約10世帯に1世帯の割合で「富裕世帯」が存在する。
ところで、合法的なビジネスを行った結果、金持ちになれば何ら問題ない。だが、中国の場合、しばしば官商が癒着し、両者共に大金を得ている。ビジネスマンは官僚の持つ特権をビジネス上、最大限利用する。他方、官僚はビジネスマンからその見返りを受けている。また、「官二代」(官僚の二代目)は、親の七光りで良いポスト(優良国有企業等のトップ)に就き、それだけで「高所得層」の仲間入りを果たす。どうも中国は同じ歴史を繰り返している観がある。
このような状況下、今もって「改革・開放」の恩恵に与れない人達は、「貧しくても、皆、平等だった」毛沢東時代を懐かしんでいるに違いない。
周知の如く、西南財経大学の調査によれば、2010年、中国のジニ係数は0.61だった。また、北京大学の調査では、2012年、同国のジニ係数は0.73となっている。これらの数字を見る限り、中国共産党(「支配の正当性」に疑問を持たれている)の役割は、すでに終わっているのかもしれない。
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