2015年9月下旬、習近平国家主席が訪米した。その際、オバマ米大統領が、直接、習主席に南シナ海・南沙諸島(英語名:スプラトリー)での中国軍による人工島建設や滑走路建設中止を要請している。
ところが、習主席は同地域での中国軍の行動は「主権の範囲内」だとして、オバマ大統領の要求を拒否した。それに、激怒したオバマ大統領が、国防総省に「航行の自由」作戦を指令したという。“弱腰”と見られていた同大統領も、さすがに重い腰をあげた。
10月26日夜(日本時間、翌27日午前)、米軍のイージス駆逐艦「ラッセン」(横須賀港が拠点)が、中国が主権を主張する南沙諸島の人工島から12カイリ(約22キロ)以内の海域に進入した。
一方、中国軍の艦艇2隻は、「領海」内に入った米イージス艦を追尾している。習近平政権は、この米軍による「航行の自由」作戦を厳しく非難した。
実は、中国が領有を主張する同諸島の7つの環礁のうち、フィアリークロス礁とクアテロン礁を除く5つの環礁は「低潮高地」(満潮時に水面下となる暗礁)である。
南沙諸島に近い沿岸国のフィリピンならば、排他的経済水域(EEZ)に「低潮高地」への人工島造成が可能である(国際海洋法第60条)。しかし、中国が南沙諸島の沿海国と主張するには、かなり無理があるのではないか。
他方、国際法では、公海上、平和的目的で人工島その他の施設を建設する自由が認められている。だが、中国は人工島を軍事拠点化した。これは、明らかに国際海洋法(87条・88条等)違反に当たる。
今回、米イージス艦は、スビ礁とミスチーフ礁という「低潮高地」を通過したという。もし、これが事実ならば、米軍は“慎重”にフィアリークロス礁とクアテロン礁という(中国が領海を主張できる)「島」ないしは「岩」を避けている(なお、大雑把に言えば、自然に人間活動ができるのが「島」で、できないのが「岩」である)。
2013年1月、フィリピンは、南沙諸島の領有問題を常設の国際仲裁裁判所に提訴した。だが、中国は応訴していない。一般に国際裁判所は、相手国が応訴しなければ裁判が成立しないのである(普通の国内法とは異なり、相手国は出廷しなくても敗訴することはない)。
言うまでもなく、安全保障理事会常任国(米・ロ・中・英・仏らP5)は拒否権を持つ。そのため、P5が国際法に違反しようと、国連は多国籍軍・有志連合等を出動させ、強制的にP5の身勝手な行動をストップさせることはできない。
南シナ海の場合、米軍が出動しない限り、中国の“膨張”を阻止できないだろう。依然、国際社会は力がモノを言う。これが現実である。
さて、今回、米軍の「航行の自由」作戦に対し、周辺国は様々に反応した。
まず、フィリピンは南シナ海で中国との係争当事国である。したがって、アキノ大統領は同海域での「(米中の)力の均衡」を歓迎し、米軍の「航行の自由」作戦を支持した。
周知の如く、かつてフィリピンにはスービック海軍基地とクラーク空軍基地という2つの米軍基地が存在した。現在、フィリピンは、再び南シナ海における米軍の関与を切望している。米軍はそれに応え、同海域の巡回警備を開始した。
次に、安倍晋三首相は、早速、米国の作戦支持を表明している。我が国は、力による領土・領海の現状変更を認めないとの立場を取るので当然だろう。
そして、オーストラリアも、米軍の作戦に賛同している。今年9月、アボット首相が党首(オーストラリア自由党)を降りたため、「親中派」と目されているターンブルが新首相となった。ターンブルといえども、米国への支持を惜しまない。
更に、従来、対中外交に慎重なインドネシアも、中国の南シナ海進出を懸念し、米軍の作戦を支持している(おそらく、ベトナムもフィリピンやインドネシアと同じ立場ではないかと推測できよう)。
けれども、韓国政府は今度の米国の作戦に対し、支持を表明していない。朴槿恵政権は相変わらず中国との関係を重視している。また、台湾政府(外省人中心の馬英九政権)も、米軍支持を打ち出していない(ただし、来年1月の総統選挙で、再び民進党政権が誕生すれば、台北も米軍の作戦を高く評価するだろう)。
韓国や台湾は、経済的に中国への依存度が高い。だから、両国は北京政府の顔色を見ながらの対応とならざるを得ないに違いない。
問題は、今後、中国軍が南シナ海に軍事基地を継続して建設した場合、オバマ政権はどのように対応するかが焦点である。場合によっては、近い将来、米中間で軍事衝突する可能性がゼロとは言い切れない。
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