2015年10月26日から29日にかけて、中国共産党第18期中央委員会第5回全体会議(18期5中全会)が北京で開催された。
主な議題は、@次期(第19期−2017年秋〜2022年秋)の人事、A「一人っ子政策」から「二人っ子政策」(1夫婦に子供を2人まで認める)への大転換、B経済政策(13次5ヶ年計画―2020年までに小康<ややゆとりのある>社会を完成―を含む)などだった。
まず、第一に、中国共産党には、「政治局常務委員は67歳までその地位に留まれるが、68歳以上は辞めなければならない」という決まりがある。規定では、2017年秋の次期人事で、習近平と李克強は残留できるけれども、他の5人(張徳江・兪正声・劉雲山・王岐山・張高麗)は残れない。
だが、習近平主席としては「反腐敗運動」継続のために、ルールを変更しても、同志の王岐山を残留させたいところだろう。あるいは、習主席は、李克強の代わりに、王岐山を首相に就任させたいのではないか。次期人事は予断を許さない。
第二に、「一人っ子政策」廃止は、1979年の実施から36年を経てようやく実現した(2002年以来、一人っ子同士が結婚した場合、2人までの出産は認められていた)。
なぜ、中国共産党は「二人っ子政策」へと転換したのか。それは「未富先老」が起きたためである。一般的に中進国が先進国へ進化する際、人々が豊かになってから少子高齢化が始まる。ところが、中国では「一人っ子政策」により、社会全体が豊かになる前に少子高齢化が生じた。
若年層が多ければ、当然、労働人口も多くなる。だから成長率が高くなる(「人口ボーナス」。好例はインド)。それに対し、若年層が少なく高齢者が多い場合、労働人口が少ない。労働人口が少なく、養うべき老齢者が多いと、成長率が低くなる(「人口オーナス」。典型は日本)。
2014年末現在、中国では、60歳以上の人口は2.12億人で、総人口に占める割合は15.5%である。21世紀半ばには、60歳以上の高齢者が4億人に達するとの予測がある。
また、ある研究(田萍ら「中国余剰労働力人口ボーナス消失時点予測」『中国高校社会科学』2015年第20151期)では、来年2016年まで労働人口は増えるが、2017年からマイナスに転じ、その後、ずっと労働人口が減少し続けるという。
中国は「二人っ子政策」で、将来、再び「人口ボーナス」(経済成長)が見込めるかもしれない。だが、都市部ではすでに教育費が高騰して、子供は一人だけで十分だという親は少なくないのである。
他方、この「二人っ子政策」には中・長期的にはメリットがあるかもしれない。だが、短期的には、ほとんど経済効果はないだろう。
第三に、目下、習近平政権にとって最大の課題は経済政策である。周知の如く、今の中国経済は目に余る。だが、北京政府は今度の会議で具体的な財政政策を打ち出していない。このまま共産党が手をこまねていては、ハードランディングは必至である。
習政権の特徴は、小手先の金融政策と財政政策の無策にある。政権内に危機感が欠如しているのではないか。だから、一向に景気が好転しない。
例えば、今年8月中旬、中国人民銀行は輸出伸長を狙い(米ドルにペッグされた)人民元を3日連続で引き下げ、1米ドル=6.4010元とした。ところが、その翌日、なぜか0.05%引き上げ、1米ドル=6.3975元と少し戻している。
あるいは、今年10月24日、中国人民銀行は、銀行の貸出金利の上限を撤廃(下限は、今年7月に実施済み)し、金利を自由化した。また、「中国版公定歩合」を0.25%下げ、1〜5年モノ貸出金利を4.75%とした。昨年11月以来、6回目の金利引き下げである。1年近くもかかって、小刻みに「公定歩合」を引き下げているようでは、その効果は推して知るべしだろう。
習李体制の打ち出した「一帯一路」(海と陸の「新シルクロード」構想)のイギリス・ドイツ等に対する外需頼みでは、成長にも限界がある。
今回、共産党は無理しても財政支出し、公共事業等で景気浮揚を図るかと思いきや、「新常態」の構えを崩さなかった。確かに、財政出動して景気を刺激したからと言って、必ずしも景気が回復するとは限らないだろう。無駄な公共事業に終わることも十分あり得る。
もし可能ならば、習政権は輸出主導型から内需主導型へと転換を図りたいところではないか。しかし、これも望みが薄い。富裕層は国内ではあまりカネを使わないし、約10.5億人もいる貧困層(1日当たり600円以下で生活)ではカネを使えない。中間層(特にアッパー・ミドル)は海外で“爆買い”を楽しんでいる。これでは、内需が拡大するわけはないだろう。
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