2015年10月26日に開催された中国共産党第18期5中全会(〜29日)では、現在の景気低迷を救うべく大胆な経済対策は打ち出されなかった。
その代わり、1979年以来、約36年にわたり実施された「1人っ子政策」が廃止され、「2人っ子政策」へと大きく舵を切ったのである。これからは、全てのカップルが2人まで子供を産める(ただし、2016年3月の全国人民代表大会で正式に承認されるまで、同政策は継続される)。
この「1人っ子政策」には、いくつか例外があった。例えば、カップルの両方が1人っ子の場合、2人までの出産を認められている(2013年から、カップルの片方が1人っ子の場合、2人まで子供を持つことが許された)。農村部では、最初に女の子が産まれると、4年後に2人目の出産が認められた。
また(チワン族を除く)少数民族には「1人っ子政策」が厳格に適用されていない。例えば、新疆・ウイグル自治区の少数民族(農牧民)および青海省の少数民族(遊牧民)や、チベット自治区の(幹部を除く)チベット族は3人まで子供を産むことが許されている。
かつて胡耀邦が党トップの時代(1981年6月〜1987年1月)、山西省臨汾市翼城県(中国ではしばしば市の中に県が存在する)で、試験的に「2人っ子政策」が実施されたことがある。翼城県では、人口が緩やかに減り始めていた。しかし、この政策が中央で採用されることはなかった。
さて、「2人っ子政策」への転換については、経済面(人口動態)と倫理面(人権問題)の両面から考える必要があるだろう。
経済面から言えば、第1に、「2人っ子政策」へ転じたからと言って、経済的即効性はほとんどないと思われる。来年夏以降、産婦人科や乳児用品関連産業では景気が良くなるかもしれないが、今の中国経済の起爆剤にはならないだろう。
第2に、中国は豊かになる前、すでに「少子高齢化」社会に入った。普通、先進国は、社会全体がある程度豊かになってから「少子高齢化」を迎える。
ところが中国の場合、すでに「人口ボーナス」(働き盛りの青壮年が多く、支えるべき高齢者が少ない)が失われ、「人口オーナス」(青壮年が少なく、高齢者が多い)状態に陥った。人為的な「1人っ子政策」の結果である。
第3に、都市部の若いカップル(特に女性)の大半は、養育費がかかるので、必ずしも2人以上の子供が欲しいとは思っていない。1人で十分だと考えている。仮に、この考え方が全国的な傾向だとすれば、特殊出生率が上昇する保証はないだろう(ちなみに、中国の特殊出生率は1.18、1.3、1.4など諸説ある)。その場合には人口動態に変化がなく、中国社会は豊かではないのに、「少子高齢化」現象が続くことになる。
一方、倫理面から「2人っ子政策」を考えてみよう。
第1に、周知の如く「1人っ子政策」下では、親が2人目以降の子供の出生を当局へ届けられない。そのため、戸籍を持たない「闇っ子」が存在するようになった。さらに、この「闇っ子」が一般人と結婚すると、当然、「闇っ子2世」が出現するだろう。
第2に、カップルが2人以上子供を持つと、巨額の罰金(例えば、年収の5倍)を課せられる。場合によっては失職することもある。
また、中国では、日常的に(男性の)断種や堕胎が行われている。
有名な例を挙げてみよう。2012年6月、陜西省安康市鎮坪県曾家鎮で、馮建梅という女性が2人目の子供を身ごもった。だが、馮は4万元(約76万円)の罰金を払えないため、7ヶ月目に当局によって無理やり早産させられた。注射による人工流産である。
そこで、夫のケ吉元は、妻と死んだ嬰児を一緒に撮った写真をネット上に公開した。ネット上では、馮建梅に対する地方政府の“横暴”に怒りの声が上がっている。結局、鎮長ら地方政府役人らが処分された。
第3に、中国では男女比率が118対100である(女児は必ずしも祝福されない)。約3000万人の独身男性が“男余り”で結婚が絶望的と言われている。
そこで、近頃、浙江大学の謝作詩教授が、「一妻多夫制」(チベットやインド・ヒマラヤ地方などで行われている)や男性同士の「同性婚」を奨励して話題になった。けれども、これらが現実的施策とも思えない。
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