周知のように、中国では共産党が国家の上に位置する一種の「党国体制」(党が国を指導し、原則、党と国に区別がない。かつて中国国民党による統治体制を指した)が敷かれている。そして、三権(行政・立法・司法) は分立していない。また、「第4の権力」と呼ばれる独立したマスメディアも存在しない(マスコミは基本的に「党の舌」と呼ばれる“官製メディア”である)。従って、チェック・アンド・バランスが働かないので、党が腐敗しやすくなる。
さて、一般の中国人は、国内メディアが共産党の意向を反映した“安全な記事”に興味を抱かない。プロパガンダ色が強く、面白くないからである。だからと言って、中国メディアがあからさまに政府批判をすれば、即、その存続が危ぶまれる。社の取り潰しとなれば、たちまち編集長のみならず、部下とその家族は路頭に迷うだろう。そこで多くの中国ジャーナリストは、読者を意識して党の意向に背くか背かないかギリギリのところで勝負する。
一部の中国ジャーナリストには気骨があり、日常的に共産党と戦っている。時には、彼らの記事や行為が党の逆鱗に触れることもある。そして、彼らはしばしば逮捕の憂き目に遭う。
2015年11月26日、北京市高級法院(高等裁判所)で、高名な女性ジャーナリスト、高瑜(1944年生まれ)の裁判が行われた。2審判決は1審の懲役7年を覆し、懲役5年に減刑された(中国は2審制なので、これで裁判は終了)。罪状は、“国家機密”の「中国共産党中央弁公庁9号文件」(以下、「9号文件」)を不法に海外へ漏洩した罪だという。
実は、2013年4月、発足したばかりの習近平新体制は、早速「9号文件」という通達を出している。この文書は極めて保守色が強い。
その中で、“大学で教えてはならない”7項目―
1.普遍的価値
2.新聞の自由
3.公民社会
4.公民の権利
5.中国共産党の歴史的過ち
6.新自由主義
7.司法の独立
―を謳っている。これでは、中国を「近代化」させるどころか、逆に、「前近代」へ引き戻すだろう。
ちなみに、高は高齢で体調が思わしくない。よって、しばらく刑は執行されないようである。
ところで、すでに旧聞に属するが、『南方周(週)末』編集部は2013年の新年の祝辞記事として、はじめ「中国の夢、憲政の夢」を掲げようとした。しかしその後、紆余曲折があり、本来2000字の文章が約半分へと圧縮されている。
前年の12年12月、『南方周末』総編集長の黄灿は、編集部の原稿を広東省委員会宣伝部へ送付するよう指示した。原稿を読んだ同宣伝部は、その祝辞内容を一部削除・訂正するよう求めた。
そこで、編集部は「中国の夢、その夢の難しさ」(約1800字)へと変更したが、さらに黄灿と宣伝部は「夢は生命に光を放つ」(約1400字)に変えた。最終的なタイトルと中身は、最初の記事とは完全に別物(約1000字)となっている。
まもなく、『南方周末』編集部は一致団結し、「中国の夢、憲政の夢」の掲載ができなくなった経緯を暴露した。当時、中国国内から『南方周末』への支持の声が上がっており、欧米のメディアからも同社への支持が拡がった。
その『南方周末』を積極的に支援したのが、人権派弁護士の郭飛雄(本名 楊茂東、48歳)・孫徳勝(32歳)、それに人権活動家の劉遠東(企業家、37歳)の3人である。
2013年4月、劉遠東はまず“経済犯”として逮捕された。他方、同年8月、郭飛雄と孫徳勝が逮捕・拘束されている(郭と孫は共産党に対し、公務員の財産公開および『国際人権規約』の批准を求める運動を中国各地で展開していた)。
2015年11月27日、広州市天河区法院での2審裁判では、郭飛雄に懲役6年、孫徳勝に2年半、劉遠東に3年の判決が下った。これにより逮捕後の1審判決で既に服役中の3人のうち、孫徳勝と劉遠東はまもなく釈放される。一方、郭飛雄は「公共秩序騒乱罪」(最大刑期5年。1審では懲役4年)の他、「争いを求め面倒を引き起こした罪」(懲役2年)を“追加”されたのである。
中国の裁判では厳密な「罪刑法定主義」は採られていない。共産党にとって都合の悪い人物は、“恣意的な罪”に問われる。同党が司法を利用し、ジャーナリストや人権派弁護士・人権活動家らへ“政治的報復”をしている疑いが持たれる。
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