澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -56-
薄熙来の盟友、徐明の奇妙な獄中死

政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 大連実徳集団(兼、実徳クラブ)会長、徐明(44歳)が、2015年12月4日、突然、湖北省武漢の刑務所で獄死した。徐はすぐに荼毘に付された。そして、2日後の6日、遺灰・遺骨が、武漢から故郷の大連へ送られている。あまりの急展開に、当局が何かを隠蔽しようとしているのではないかと疑わせる(2011年11月、薄熙来の妻、谷開来が英国人ヘイウッドを殺害した後、すぐに遺体を焼却したことを想起させよう)。
 徐明の死因は急性心筋梗塞だと言われる。刑務所で同室の3人が、トイレで徐の苦しむ声を聞いて、すぐに徐に駆け寄った。しかし、すでに徐は亡くなっていたという。ただし、徐明には心臓疾患などの病歴はなかった。徐は健康に気を遣い、獄中、毎日10キロのウォーキングを欠かさなかった。そのため、誰かに殺害されたのではないかという噂が流れている。
 徐明は2013年に「経済犯罪」で懲役4年の判決を受けていた(ただし、裁判の詳細は不明)。そして、2016年9月11日で刑期が満了する予定だった。ひょっとすると、この徐の出所を歓迎しない勢力がいるのではないだろうか。
 2012年3月、重慶市トップだった薄熙来は部下の王立軍(同市の公安トップ)が「米成都領事館逃亡事件」を起こしたため、失脚した。翌13年9月、薄熙来は無期懲役の判決を受け、翌10月、その刑は確定している。
 裁判の際、証人として立ったのが、薄熙来の妻、谷開来(無期懲役)と元部下の王立軍(懲役15年)、それに徐明の3人だった。
 徐は2013年8月、薄熙来裁判(山東省済南市中級法院)に出廷し、証言した。だが、その時、徐明は決して薄熙来に不利な証言はしていない。一方、薄熙来は、(妻の谷開来は徐と親しいが)自分は徐を知っている程度だと述べた。
 徐明は薄熙来が大連市長・遼寧省長等を歴任している間に、密接な関係を築いている。薄と手を組む事で、中国の10大富豪にのし上がった。大連実徳集団は、石油化学、化学工業、金融・保険、文化・体育等をカバーする一大コンツェルンとなった。
 徐明は薄熙来一家に2100万人民元(約4億円)を拠出している。また、薄が中国のスター、章子怡らとの交際時にも徐が出費した。
 薄熙来・谷開来夫妻の間には一人息子がいる。薄瓜瓜という。瓜瓜は父親が逮捕・拘束された時、米ハーバード大学ケネディ・スクール(大学院)に在籍していた。その後、瓜瓜は父親の裁判の判決が出た頃、コロンビア大学のロー・スクールへ行っている。この瓜瓜へ学費等を援助していたのが徐明である。
 他方、徐明は王立軍とも親しく、王の直系親族のために、北京で285万人民元(約5400万円)のマンション2つを購入した。

 さて、周知の如く、中国では有力政治家と特別な関係がなければ、ビジネスで成功することは難しい。
 例えば、電子商取引の阿里巴巴(アリババ)集団のジャック・マー(馬雲)である。実は、アリババには、江沢民の孫(江志成)が共同経営者である博裕資本、温家宝の息子(温雲松)が創立した新天域資本などのファンドが名を連ねている。馬雲は「太子党」との関わりが深い。だが、馬は共産党幹部との親密な関係を否定している。
  無論、徐明も例外ではなかった。徐は温家宝の妻、張培莉と同じ仕事をしていたという。そのため、徐は温家宝(薄熙来とは敵対関係)と知り合い、温の娘 温如春と交際した事があるとも伝えられている。

 ところで、徐明が収監されてから、大連実徳集団の実権を握ったのは、徐の弟である徐斌と徐の友人、戴永革(ハルピン人和集団)だった。
 戴永革(46歳)は、曽慶紅の息子、曽偉(その妻は蒋梅)と一緒に1000億人民元を超えるマネーロンダリングを行なったと報道されている(ちなみに、曽偉・蒋梅夫妻は、オーストラリア・シドニーに巨額の不動産投資を行っている)。現在、習近平政権は「反腐敗運動」を行なっているが、戴永革と曽偉がその対象となる恐れもあるだろう。
 それにしても、薄熙来が収監されて以来、2015年1年間で徐明を含め、薄熙来に関連した人物が3人も亡くなった。これは単なる偶然なのだろうか。
 2015年4月1日、薄熙来を裁いた王旭光(山東省済南市中級人民法院常務副院長)が青酸化合物を飲んで自殺している(享年50歳)。王は重度の鬱病を患っていたという。
 また、同年7月28日、谷開来による「ヘイウッド殺害事件」を取り調べた満銘安(安徽省合肥市検察院検察長)が家の中で首つり自殺をしている(享年60歳)。
 今後、また薄熙来裁判に関連した人間が死なないとも限らないだろう。“中国の闇”は限りなく深い。



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