2016年1月4日、中国では初取引で、CSI300指数(上海証券取引所・深圳証券取引所に上場されている国内向A株中、時価総額および流動性の高い300銘柄で構成)が7%急落した。
そこで、中国証券監督管理委員会は「サーキット・ブレーカー制度」を発動している。本来、同制度は、主に“先物取引”でその価格が一定幅以上の変動を起こした際、当局が相場安定化のために発動する取引停止措置である。
その3日後の7日、取引開始約30分でCSI300指数が再び7%以上急落した(上海総合指数は3125ポイント)。その時点で、「サーキット・ブレーカー制度」が発動され、取引は全面停止した(株式市場の混乱をかんがみて、翌8日から同制度を一時的に停止するという)。
なぜ、年初来、中国での株価が暴落したのか。
第1に、習近平政権が有効な景気対策を打っていないからである。
2015年12月18日、翌16年の経済運営の基本方針を決める「中央経済工作会議」が開催された。同21日、同会議は「積極的な財政政策を推進する」として閉幕している。「新常態」(ニュー・ノーマル)を掲げる習近平政権もようやく財政支出を“決断”した。とはいえ、あまり具体的な政策は明示されていない。
主なものとして、@企業の技術革新・設備投資を促すため財政支援する A企業が資金調達する際の金利負担の軽減に取り組む B企業向け減税を行う等である。だが、この程度では景気回復は難しい。
第2に、中国では、今年元旦に発表された15年12月の「製造業購買担当者景気指数」(PMI。50を上回れば近い将来、景気が良くなり、反対に50を切ると景気が悪化するという指標)が49.7と振るわなかった。
世界からも注目される中国のPMIは、2015年8月から12月まで5ヶ月連続でマイナスが続いている。そのため、中国経済に対する不安から売り注文が殺到したと思われる。
確かに、PMIは景気の好不況を示す重要な指標だが、「公定歩合」(特に貸出金利)を見れば、その経済状況は一目瞭然である。中国の「公定歩合」は、昨15年10月24日、1〜5年モノ貸出金利は4.75%まで下落した。1990年以来、同国では5%を切ったことはなかったのである。現在の景気は、2008年9月の「リーマン・ショック」時よりも悪いと言っても過言ではない。
第3に、中国証券監督管理委員会の動向である。
同委員会は、昨年7月8日から半年間、大株主(持ち株が5%以上)に対し、株式売却禁止措置を採っていた。だが、年明け1月8日の期限満了後、大株主が持ち株を大量に売却する恐れがあった。そのため、一般投資家が株価値下がりに嫌気して、売りに出たと思われる。
けれども、同委員会は大株主に対して、この禁止措置をさらに1年間継続すると発表した。また、1月9日以降、大株主は持ち株を売却する際、今後3ヶ月ごとにその1%を超えてはならず、株式売却は15営業日前に当局へ申請を行うと決めている。したがって、大株主は“損切”ができなくなった。
ところで、習近平政権は“爆弾”を抱えている。
中国社会科学院の調査(2015年8月に公表)では、中国政府の債務残高が2013年末に56兆5000億元(約1130兆円)に達した。中国のGDPは同年、名目で56兆8845億元なので、債務残高とほぼ同額と見られる。
一方、米マッキンゼー国際研究所の報告書(2015年2月)によれば、2014年、中国全体の負債はGDPの282%にのぼるという。内訳は、GDP比で政府が55%、銀行が65%、ノンバンク(シャドー・バンク)が125%、家計が38%である。(ちなみに、中国社会科学院<2013年>とマッキンゼー国際研究所<2014年>の各報告では、前者は政府負債が約100%、後者が約55%と見積もっているが、この違いは何か不明である)。
マッキンゼーが指摘したように、中国はノンバンク(シャドー・バンク)の負債が突出している。地方政府は、ノンバンクに借金して、主に不動産開発等でそのGDPを増やしてきた。ところが、景気減速や“不動産バブル崩壊”の影響で、ノンバンクの一部が不良債権化としているという。
例えば、主要70都市の不動産価格推移を見ると、2014年5月から翌15年6月まで14ヶ月連続、不動産価格が上昇した都市よりも下落したそれの方が多かった。
1線都市と呼ばれる北京・上海・深圳等の不動産価格は、一時よりもだいぶ持ち直してきている。だが、それ以外は未だ下落傾向が続く。
もし、ノンバンク(シャドー・バンク)の焦げ付きが拡大すれば、地方政府は中央政府の支援を仰がねばならなくなるだろう。ただ、これ以上、中央の財政赤字が増大すれば、習近平政権は更に苦しい財政状況に追い込まれるに違いない。
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