2016年1月16日(土)、台湾では総統(大統領)選挙と立法委員選挙(1院制。日本の衆議院選挙に相当)が同時に実施される。特に、前者は「第3次政権交代」が起こるかどうか、内外から注目を浴びている。
1945年、日本の敗戦以来55年間、台湾は国民党の支配下にあった。1996年、李登輝(本省人=早い時期に渡台した漢民族の末裔)政権下、台湾初の総統民選が実施されている。それまでは、台湾住民が国民大会代表を選出し、その代表(国民大会)が正副総統を選ぶ間接選挙だった。
「第1次政権交代」は2000年に起きた。同年、野党・民進党は、陳水扁(本省人)候補を擁立し、初めて国民党から政権を奪取した。これが中華世界における初めての「平和的政権交代」である。なお、2004年、陳水扁総統は再選されている。
2008年、いったん下野した国民党は、馬英九(外省人=1949年、蔣介石と共に渡台した「在台中国人」及び、その2世・3世)候補を立て、再び政権を取り戻した。「第2次政権交代」である。そして、前回、2012年、馬総統は再選された。
今回、野党・民進党は蔡英文候補を擁して、政権奪還を目指している。他方、与党・国民党は朱立倫主席(外省人と本省人のハーフ)を候補として擁立(昨年10月、突然、洪秀柱総統候補が引きずり降ろされている)した。また、親民党は宋楚瑜主席(外省人)が立候補している。各種世論調査によれば、現時点で、蔡候補の当選が確実視されている。
ただし、今度の総統選挙には3つの懸念材料がある。
第1に、本当に何事もなく、総統選挙が行われるかどうかである。
2004年、総統選前日、陳水扁総統と呂秀蓮副総統が台南で選挙遊説中、暴漢に狙撃された。銃弾は車に乗っていた正副総統に命中している。幸いに2人とも命には別条なく、翌日、無事、選挙が行われた。
翌日、陳水扁総統が、国民党の連戦総統候補(副総統候補は親民党の宋楚瑜)を3万票弱で辛うじて振り切っている。もしも、その銃撃事件で正副総統が命を落としていたら、選挙は延期されていた。
今回、立候補している3ペアの誰かが暗殺されたならば、戒厳令が敷かれ、選挙は延期されるだろう。その場合、すでに“レイムダック化”している馬英九政権が延命する。
第2に、民進党(および民進党系)が総統選挙はもとより、立法委員選挙でも過半数(113議席中、57議席以上)を制するか否かである。
1949年、国民党が渡台して以来、未だかつて“ブルー陣営”(国民党及び国民党系)が立法院で少数になった事はない。ただ、今度ばかりは“ブルー陣営”が初めて少数派に転落する恐れがある。
逆に、もし“グリーン陣営”(民進党及び民進党系)が立法委員選挙で過半数割れしたならば、陳水扁政権下同様、蔡英文新総統の政権運営がきわめて困難になるだろう。立法院で法案が通らないからである。
第3に、仮に、順調に総統選挙と立法委員選挙が行われ、両選挙で民進党(および民進党系)が勝利したとしよう。だが、5月20日の新総統就任式まで4ヶ月あまりもある(新立法院<新国会>は2月1日に召集される)。
昨年11月、突如、シンガポールで習近平中国国家主席と馬英九台湾総統の間で、会談が開かれたことは記憶に新しい。ひょっとすると、習馬会談で“平和的”中台統一の“密約”が交わされた公算がある。
現在の習近平体制は、政治・経済・社会のいずれを取っても行き詰まっている。そこで、習主席が求心力を高めるため、台湾との統一を目指しても不思議ではない。一方、馬英九は根っからの「中台統一派」であり、習近平とは両岸統一の志は一緒である(ちなみに、台湾住民の約80%以上は、当面の中台統一に反対している)。
従って、たとえ蔡英文が当選したとしても、その権力移譲期間(空白期間)に、中国軍が台湾海峡を渡る可能性を排除できないだろう(実際、昨年7月、中国共産党は、内モンゴルで台湾総統府に模した建物を建築し、そこで急襲演習を行っている)。
その時、馬英九政権は(台湾軍を動かさず)中国軍を“歓迎”するかもしれない。すると、米軍は「台湾関係法」(国内法)による台湾防衛が不可能となる。
同法は、中国の台湾侵攻により台湾住民の生命・財産が脅かされた時、米国は台湾にあらゆる援助を行うと記している。けれども、同法は“平和的”中台統一に関しては、何ら効力を持たない。そのため、オバマ政権は両岸の“平和的”統一を看過せざるを得ないだろう(ただし、“グリーン陣営”が島内でゲリラ戦を展開すれば、話は別である)。
果たして、無事に、5月20日、新総統就任式が行われるのか。目下、台湾は重大な岐路に立たされている。
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