2016年1月16日(土)、台湾で総統(大統領)選挙と立法委員(国会議員)選挙が同時に行われた。前者に関しては、1996年の総統直接選挙導入以来、6回目の民選である。「第3次政権交代」が起こるかどうか、世界から注目を浴びた。
既報の通り、総統選挙の結果は、野党・民進党主席の蔡英文候補(689万票余り。得票率は56.1%)が、与党・国民党主席の朱立倫候補(381万余り。同31.0%)をダブル・スコアに近い大差をつけて勝利した(他方、親民党主席の宋楚瑜候補<157万票余り。同12.8%>は善戦)。なお、事前の各種世論調査で、蔡英文の優勢が伝えられたせいか、投票率は約66.3%と過去最低を記録している。
一方、立法委員選挙では、各党が全部で113議席(選挙区79議席、比例区34議席。過半数は57議席)を争った。ちなみに、選挙区での投票率は約66.6%である。
今回、第1党になった民進党は、単独過半数の68議席を獲得(前回比28議席増)し、1986年の結党以来、立法院で初めての多数党となる。
第2党は、野党に転落した国民党で、35議席しか取れなかった(前回比29議席減)。
第3党は、民進党に近い新政党「時代力量」(ヘビーメタル・バンド「ソニック」のフレディ・リムこと林昶佐が中心)である。立法委員選挙の初陣で5議席獲得した。
第4党は、宋楚瑜の率いる親民党で、前回と同じ3議席を確保した。その他、無党団結連盟1席(前回比2議席減)、無所属1議席という結果である。
大雑把に言えば、前回獲得した国民党の議席が、丸ごと民進党に奪われている。なぜ、民進党が大躍進したのか。実は、馬英九総統の支持率の低迷に加え、2014年、すでにその“予兆”が現れていた。
第1に、同年3月、与党・国民党は、前年、中台間で締結された「サービス貿易協定」の批准を急いだ。だが、一部学生がそれに反対して、立法院を突然、占拠した。「ひまわり学生運動」である。多くの台湾住民がその学生運動を支持した(翌月、王金平・立法院長が同協定の再審議と「両岸協議監督条例」を約束したので、学生らは立法院を去っている)。
第2に、同年8月末、中国全国人民大会代表が、2017年の香港行政長官選挙(1人1票)に関して、突然、候補者を2〜3人に絞るようルールを変更した。「民主派」人士が候補者とならないようにするためである。
これに反発した学生らが、翌9月から大規模な香港「雨傘革命」を起こし、同年12月中旬まで続いた。台湾と香港の民主化運動が“連動”している点は見逃せない。
第3に、同年11月、台湾で統一地方選挙が行われた。人口の約7割を占める6直轄市選挙では、民進党が得票率約47%で国民党(同約40%)に圧勝した。
多くの有権者は、国民党が中国の「太子党」と結託し、台湾を中国に売ろうとしているとの疑いを抱いたのかもしれない。
また、選挙期間中、香港の「雨傘革命」が進行中だったのも大きかった。野党・民進党は「(北京から圧力を受けている)今日の香港は、明日の台湾」というイメージ作りに成功している。
この時点で、今回の総統選挙・立法委員選挙の帰趨(きすう)はある程度決まったと言っても過言ではない。
第4に、(外省人中心の)国民党による本省人“洗脳工作”の効き目がほとんど失われたのである。
最近、我が国でも旧メディア(テレビ・ラジオ・新聞等)対新メディア(フェイスブック、ツイッター、ブログ、インスタグラム等のSNS)の戦いで、新メディアが優勢になりつつある。
台湾の20代・30代若者は、旧メディアにあまり触れることはない。そのため、国民党の“洗脳工作”を免れた。多くの若者達は自らのアイデンティティを(中国大陸ではなく)台湾島内に求めている。だから、彼らは「台湾人意識」が強い。
けれども、元来、国民党は中国大陸から台湾へやって来た党である。そして、依然、現実にそぐわない「一つの中国」を掲げている。一方、民進党は台湾で生まれた政党であり、「台湾人意識」を全面に押し出している。若者らがどちらの党にシンパシーを覚えるのか言うまでもないだろう。
最後に、選挙直前に起きた「周子瑜謝罪事件」を取り上げておきたい。
韓国「TWICE」というグループで活躍する台湾出身のアイドル、周子瑜(16歳)が以前、韓国と台湾(中華民国)の国旗を一緒に振ったことがある。そのため、周は「台湾独立派」とみなされた。
中国から圧力を受けた韓国の事務所(JYP娯楽)は、選挙直前、周子瑜を公開謝罪させている。この事件をめぐり、台湾島内は議論が沸騰した。国民党は、このために50万票から100票減らしたと推測しているが、定かではない。
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