今年の春節明け、2月15日、李克強総理は国務院常務会議で「中国には依然、巨大な潜在力がある。・・・今年、世界の経済情勢は非常に複雑だが、(孫悟空の)「如意棒」を振り回して対応し、チャレンジしよう」と檄を飛ばしている。
早速、日本の一部マスコミは、その「如意棒」という言葉に飛びついた。昨年2月、やはり李克強首相は重要会議で、政治改革に関して孫悟空の「如意棒」云々と述べている。したがって、今回初めて使用した言葉ではない。李首相が毎年「如意棒」を出してくるのは、余程それがお気に入りなのだろう。
それとも、穿った見方をすれば、李首相は「如意棒」のようなモノで“マジック”を行わない限り、政治改革・経済改革などはできないと暗に示唆しているのだろうか。
実際、今回の李発言には、具体的な中身がほとんど見当たらないのである。だから、マスコミが「如意棒」に飛びついたのは、ある意味、仕方ないのかもしれない。
さて、李発言の注目点として、強いて挙げれば「31の大中都市から県レベルの市へ範囲を拡げたが、今年1月の失業率は4.99%だった」というくだりだろう。しかし、その失業率という言葉は、我々のイメージするそれとは似ても似つかない。
中国の失業率とは、正確には「都市登録失業率」である。都市に流入した農村戸籍を持つ農民工(都市全体の20〜30%)は、たとえ失業していても失業者とは認められない。都市住民でも、失業中だと当局へ届けなければ「都市登録失業率」にカウントされない仕組みになっている。
したがって、中国国内の専門家は、本当の失業率は「都市登録失業率」の約5〜6倍と見積もっている。だとすれば、現時点で中国の真の失業率は25〜30%だと推測できる。
仮に労働人口が8億だとすれば、失業者数は2億人〜2.4億人となる。もし9億ならば、失業者は2.25億〜2.7億人となるだろう。
あえて言えば、李発言にはもう一つ注目すべき点がある。今の習近平政権は投資中心から消費中心への構造転換を模索している。しかし、李克強首相は、国内の貯蓄率が高いと指摘した。確かに、中国では貯蓄率が約40〜50%と異常に高い。それは社会保障制度が充実していないからである。
民間企業(党・政府機関および国有企業関係以外)には、原則、失業保険や疾病保険がない。また、年金もない。したがって、ある程度まとまった貯金がなければ、いざという時に困るだろう。病気や怪我をした際、病院すら行けない。老後も心配だろう。また、教育費も高騰している。
したがって、理論的には貯蓄率が下がり一部のカネが消費に回れば、まだまだ中国の経済成長は可能かもしれない。中央政府としては、どうしても消費が伸びないならば、人民が銀行へ預けた莫大な預金を使って公共投資で景気浮揚を図りたいところだろう。
実際、2008年の「リーマン・ショック」の際、胡錦濤政権は4兆元、一説には40兆元を使って景気回復した経緯がある。
けれども、中央政府は(地方政府の負債とシャドー・バンキング<=ノンバンク>の不良債権を含め)巨額の財政赤字を抱えているため、財政出動には慎重にならざるを得ない(中国の事情をあまり知らない一部エコノミストは、北京政府が財政支出すれば、たちまち景気が良くなるという楽観論を唱えている)。
結局、習近平政権は「新常態」(ニュー・ノーマル)と称してお茶を濁し、ずるずると景気を悪化させた。中国版“公定歩合”を見ればわかる通り、1990年以降、現在、最も景気が悪い。
ところで、来月(3月)開催される全国人民代表大会で、今度は「爆買い禁止令」(正確には「爆買い制限令」。1人1年間につき、10万元<約180万円>まで海外への持ち出し可能)が制定されるという噂が流れている。
一般に、中国人は自国で生産されたモノを信じない。訪日中国人が日本で買物をする際、ブランド品でも「メイド・イン・チャイナ」であれば、それを避ける傾向にある。つまり、アッパー・ミドル(中流上位)の中国人らの海外での“爆買い”原因は、中国製品への不信感による。
しかし、アッパー・ミドルが海外で“爆買い”し、中国国内で売却すれば、個人輸入転売と同じ原理になるはずである。“爆買い”が国内消費を刺激する材料にならないだろうか。だとしたら、「爆買い禁止令」は“愚策”かもしれない。
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