中国には、未だ刑務所へ入る人間を雇う文化(「囚人交代制度」)がある。最近、同国(湖北省宜昌市?)で受刑者の身代わりとして、善良で前科のない25〜30歳男性1名の“急募”があった。
その条件とは、@受刑期間は5年7ヶ月 A報酬は320万元(約5500万円)B入所前、報酬は一括払い C入所中、刑務官による扱いは穏当を保証。この話題には続報がないため、その“急募”に対し応募者がいたかどうかは不明である。
実は、我が国でも、暴力団という特殊な組織内(疑似共同体)では“身代わり受刑”が存在している。実行犯の代わりに同じ組の人間が刑務所へ入ることがある(集団犯罪では、1人で全ての罪を負うかもしれない)。
ある組の中枢の人間が、敵対する組の組長・若頭等を殺した場合、しばしば前者の子分が「おつとめ」と称し、代理で刑務所暮らしをする。その間、子分の家族は組が面倒見る(最近はシノギが難しいので、組が家族の面倒を見られないことがあるという)。出所後は組での昇進が約束されているケースが多い。そうでなければ、喜んで代理入所する者は少ないだろう。
さて、日本の暴力団組織と中国社会とは構造がよく似ている。暴力団も中国も、普遍的な国家の法律より、内輪(共同体)の規則・ルールが優先される。
例えば、日本社会で殺人という行為はどうか。言うまでもなく、一般社会で殺人は「絶対悪」とされる。ところが、マフィア社会では、敵対する組のトップのクビを取ることは“栄誉”でさえある。少なくても、所属する組の中では絶賛される。しかし、一般社会では、(戦争等以外は)理由はどうあれ殺人が“栄誉”となることはまずない。
他方、中国では、必ずしも一般的法律は自分を守ってくれない。依然、中国が「法治」国家ではないからである。だが、共同体(血縁・地縁・幇)はそのルールを遵守する限り、確実に自分を守ってくれる。したがって、中国人は国内法を軽視・無視しても共同体の規則・ルールを遵守する傾向がある。
反対に、もし中国人が共同体のルールに違反した場合には、命の保証はない。同じ共同体の人間が地の果てまで追いかけて行き、裏切り者を追い詰めるだろう。
周知のように、中国公安が“狐狩り”と称し、(共産党の裏切り者である)腐敗官僚等を海外にまで追って、秘密裡に逮捕しようとしている。中でも、胡錦濤前主席の大番頭だった令計劃の弟 令完成が目下、共産党の1番のターゲットだろう(ちなみに、令一家の本名は“令狐”である)。
令完成は党最高幹部のセックス・ビデオと共に、(核ボタンの場所を含む)約2700点の国家機密を国外に持ち出したとされる。米オバマ政権は、令完成の身柄を保護し、中国共産党へ引き渡さない公算が大きい。
翻って、中国国民党は、秘密結社の青幇(初めは大運河の水運業ギルド。のちに秘密結社へと発展)、哥老会(農民の互助自衛組織が秘密結社となる)の流れをくむ。
他方、中国共産党は紅槍会(華北農村地域で組織された民間自衛武装団体)と関係が深い。国共両党は本来、イデオロギーこそ異なるが、組織構造は酷似している。
現在、中国共産党内は「太子党」・「上海閥」・「共青団」(=「団派」は、最近、勢力が衰退しているという)という3つの大きな「幇」に分かれる。それら以外にも、共産党は様々な「幇」で構成されている。
ところで、日本の暴力団組織と同様、中国社会では依然として公安・武力警察・人民解放軍が、公然と暴力や恐喝で民衆を弾圧する。そして、しばしば“人権”は軽視・無視され、一般の人々は公権力によって殺傷されている。
だが、一方、中国人は「幇」内では、血肉を分けた兄弟のようにお互い助け合う。当然、人権も重視される。けれども、原則「幇」外の人間を人間扱いしない。時には、自分のペットよりもひどい対応をするだろう。したがって、公安・武装警察・人民解放軍は、自分の「幇」に属さない人々に対して、しばしば残忍な行為に及ぶのである。
1989年6月の「天安門事件」を想起して欲しい。人民解放軍が丸腰の学生や市民を掃射し、戦車で轢き殺した(一説には、死者は1万人以上と言われる)。何故、ケ小平の命を受けた人民解放軍は、平気でむごい事ができたのだろうか。それは、ひとえに自分の所属する「幇」以外の人々は人間と見なしていないからである。
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