今年3月、中国では両会(全国人民代表大会と人民政治協商会議)が行われている。特に、全人代では、今後、国家の方針を決める「第13次5ヵ年計画」(2016年〜2020年まで)が発表された。
李克強首相は政治活動報告の中で、2020年まで中国のGDPを6.5%以上継続したいと高らかに宣言した(もし、本当にそれが達成されるならば、近い将来、間違いなく中国のGDPは米国を超えるだろう)。
さて、日本のマスメディアはほとんど報道していないが、3月4日(全人代開幕前日)、ネット上に“衝撃的”な公開書簡が登場したのである。
昨年4月、雑誌『財経』の親会社、財訊集団と新疆ウイグル自治区とアリババグループ(創始者はジャック・マー)の3者が立ち上げた『無界新聞』に、「習近平同志の党と国家的指導職務の辞任要求に関する公開状」という文章が掲載された。以下は、その論旨である。
習近平政権が誕生して以来、習主席は政治・経済・思想・文化で権力を集中させてきた。その結果、あらゆる方面で危機が生じている。
元来、民主集中とは、政治局常務委員会で決めるのがスジである。ところが、習主席はその民主集中をないがしろにした。本来ならば、経済担当の李克強首相の権限まで自らが握っている。
習近平体制になると、北朝鮮は勝手に核実験やミサイル試射を行っている。ケ小平が「養光韜晦」(能ある鷹は爪を隠す)政策を採ってきたにもかかわらず、習政権は東シナ海や南シナ海で摩擦を起こした。だから、ベトナム・フィリピン・日本等を対中国で結束させている。
香港では「一国二制度」が建前のはずだが、習主席はそれを無視している。他方、台湾では民進党政権が誕生した。
習主席は経済まで首を突っ込み、株式市場を混乱させている。また、サプライサイド改革や脱過剰生産(能力)で、国有企業や中央(直轄)企業のレイオフを行った。また、民間企業から大量の失業者を出している。
習政権の「一帯一路」戦略では、巨額の外貨準備を使用しながらも、他国からそのカネを回収できていない。同様に、外貨準備高を使っても人民元の下落を止められない。
習政権下、日夜「反腐敗運動」が行われている。そのため、政府職員らは行動が消極的になった。
習政権は、政治、経済、外交、イデオロギー等、全てにわたり失敗した。人民の間には怨嗟の声が起きている。したがって、習主席は辞任すべきだと勧告している。
言うまでもなく、この問題の文章は掲載後、すぐ削除された。
一体、誰がこの文章を書いたのだろうか。名前はなく、ただ「忠実なる共産党員」という署名のみである。現在の習政権を快く思っていない「反党人士」あるいは「救党人士」に違いない(ハッカーがその文章を掲載させたのだろう)。
ひょっとすると、習主席の所属する「太子党」の中の人間かもしれない。例の人気ブロガー 任志強(「太子党」所属)を想起させる。あるいは、現在、死闘を繰り返している「上海閥」か「共青団」の1人(または複数)とも考えられる。
さて、日本の一部中国研究者は、習主席への庶民からの人気を“過大評価”するむきがある(そもそも中国にはちゃんとした世論調査がほとんどないので、習主席に人気があるかどうかは不明である)。
恐らく実態は異なるだろう。(庶民はともかく)少なくとも官僚・知識人・財界人らは、すでに習主席に対し“失望”したと伝えられる。
それは当然だろう。「反腐敗運動」と名の権力闘争の中、今までどれだけの有能な人材が自殺し、逮捕・拘束され、裁判にかけられたかわからない。
習主席や盟友の王岐山(中央紀律検査委員会書記)が「アヘン戦争」時の林則徐のような“クリーン”な政治家ならばまだしも、習王ともにスネに傷を持つ。
例えば、習近平一族は、香港をはじめ、海外に巨額の資産を有している。また、習主席の女性遍歴に関する暴露本は香港で発禁処分となった。
一方、かつて北京市長だった王岐山は、カナダへ逃亡したとされる郭文貴(北京盤古氏投資有限公司)と関係があった。また、王は「中国で最も危険な女性」と言われるジャーナリスト 胡舒立と深い仲とも噂される。
恐らく、これら習王に関する“スキャンダル”は事実だろう。たまたま、この2人が権力を持ったが故に、現在、中国では「第2の文革」が展開されている。けれども、それに対する風当たりが強いことを忘れるべきではない。。
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