今年3月4日、『無界新聞』上に「習近平同志の党と国家的指導職務の辞任要求に関する公開状」が出現した(すぐに削除される)。そして、「習近平打倒同盟」なるグループが出現している。
他方、同月8日、今度はネット上に「山西毛学組」による「李克強首相辞任勧告」が掲載された。その内容は、概ね以下の通りである。
李克強が首相になって以来、中国経済は減速し、人民の暮らしは悪化している。特に、昨15年7月、株価下落で、20兆元(約350兆円)が吹き飛んだ。
同年10月、(ジョージ・W・ブッシュ政権下の)米ヘンリー・ポールソン元財務長官が北京を訪問した。その際、李首相は「現在、中国は国有企業改革を行って混合所有制経済を発展させているが、これからは米国と協力し、中国(企業)を私有化させる」と明言した。これは、憲法第6条(社会主義公有制)違反である。
李首相は、行政院下の各部門に対して、一体何を行ってきたのか。
例えば、衛生部(厚生省)には、病人が高くて病院へ行けないという問題がある。財務部(財務省)は、老人からカネを搾り取っている。教育部(文部省)は、小中学校でも私有化・金銭化し各家庭で補習するため、教育を受ける人が徐々に少なくなり、学校で学べない青年が段々と増えている。外交部(外務省)は、軟弱・無能で自らを辱めている。
一方、証券監督管理委員会は、自ら盗むことを監督し、他と結託し、内外と呼応して中国を空洞化させている。銀行は米国債を買い、外貨を西側に流出させている。国有企業は、無理に改革を行い、外資にそれを買わせている。
このように、李首相は総理としての器ではないので、辞任すべきだという主張である。
確かに、この3年間、李首相は中国経済を失速させた。けれども、李首相が力を発揮できないのは、習近平主席が李首相の権限を奪っているからでもある(2013年11月、習主席が「中央全面深化改革領導小組」を立ち上げ、自らに権限を集中させた)。
山西省は、薄一波(薄熙来の父親で、元国務院副総理)と令計劃の出身地であり、薄・令一族は「西山会」を形成していた。その「西山会」中、令計劃の兄 令政策ら山西省の4人の副省部級高官や国家発展改革委員会副主任の劉鉄男らが逮捕されている。
しかし、その山西省に「毛学組」という“親毛沢東派”のグループが現れたのである。
目下、習主席は毛沢東礼賛をし、自らが毛沢東の後継者を目指している。かつて、「東方紅」という毛沢東の礼賛歌が歌われていた。最近は「東方又紅」という習主席を賛美する歌が作られている(メロディーは「東方紅」と同じ)。ということは、「山西毛学組」は、習近平親派”で間違いないだろう。
特に、「毛学組」が李首相(「共青団」出身)をターゲットにしているのは、「反習近平派」(習主席を引きずり下ろし、李首相をトップに据えようと画策する)への“反撃”とも考えられよう。
ところで、問題の『無界新聞』は、昨年4月、雑誌『財経』の親会社、財訊集団と新疆ウイグル自治区とアリババグループ(創始者は馬雲)3者の出資で成立した。
では、なぜ新疆ウイグル自治区で習主席への辞任要求公開書簡が掲載されたのか。それは、同自治区書記(実質的トップ)が「上海閥」の張春賢だったからだろう。張春賢は周永康(前政治局常務委員。現在、服役中)によって、新疆ウイグル自治区のトップに推薦されている。
中国では既に、省市自治区トップの約3分の2が習主席への忠誠を誓ったと言われるが、張春賢は未だ言を左右にして、習主席への忠誠を誓っていない。張は「反習近平連合」側にいると推測できよう。
ちなみに、張春賢の妻 李修平は、CCTVの有名な元キャスターである。李は、周永康の後妻 賈暁Y(CCTVレポーター)と同僚だった。また、李修平は『無界新聞』の執行総裁 欧陽洪亮と親しかった。その欧陽洪亮はかつて『財経』胡舒立(王岐山と深い関係と噂される)の下、記者として働いていたのである。
今後も、「太子党」の習主席と「共青団」の李首相、および「上海閥」の間で熾烈な党内闘争が続くだろう。現時点で、どのグループが勝者となるのか予断を許さない。
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