中国では、2月19日(全国人民代表大会と人民政治協商会議開幕の約2週間前)、習近平主席が新華社・人民日報・CCTVを訪問し、党(正確には習主席自身)に対し忠誠を誓うよう求めた。
翌20日、早速『南方都市報』は習主席の「メディアは党に対し、絶対的忠誠を誓わねばならない」という見出しを一面に掲げた(2行の中国語で書かれた右端は「媒体/姓党」)。
同紙深圳版に限っては、今年1月に亡くなった深圳市「改革・開放」の元老 袁庚氏(享年98歳)の一族が遺灰を海に撒く写真をその下に載せ、「魂が大海へ帰る」(中国語は「魂帰/大海」)=「終末を迎える」との大きなキャプションを付けた。
上から右端の横2文字ずつを拾うと「媒体/姓党/魂帰/大海」と読めなくもない。つまり「メディアが党に忠誠を誓うのは終末を迎える」となるだろう(「改革は終わりを告げた」や「メディアの魂は死んだ」等の別訳も考えられる)。
この1面は、すぐに別の地方版へと差し替えられたが、同紙の編集長、副編集長、編集責任者3人が厳重な処分を受けている。
次は新華社が、3月13日(両会開催中)、習近平主席の肩書を「中国“最高”の指導者」と書くべきところ「中国“最後”の指導者」として“誤字”のまま配信した。
無論、その“誤字”はすぐに訂正されているが、記者1人と編集者2人が責任を取らされ停職処分になったという。
これは単なるミスだったのか。それとも編集者が“故意”に「中国“最後”の指導者」としたのか。普通に考えれば、党への絶対的忠誠を求めた習主席に対し、新華社が“反発”したと推測できよう。恐らく同社は“確信犯”だったと思われる。
さて、これら2事件に関しては日本でも報道されている。ところが、3月7日、新華社記者 周方がかつての事件を“再告発”したことについては、ほとんど報道されていない。実は、こちらの方が重要である。
2013年、周方は、某副部級(副大臣レベル)高官が“酒池肉林”の宴会に参加した事を告発している。だが、その件は共産党当局によって握り潰された。
そこで、周方は、全国人民大会代表常務委員会、最高人民法院、最高人民検察院、中国共産党中央紀律委員会に対し、今度は実名で、メディアを主管する特別インターネット主管部門が基本的人権を踏みにじり、基本的言論の自由の侵害した、として再告発した。以下がその要旨である。
党インターネット主管部門は長期間にわたり職務怠慢、職権乱用、人権侵害等の憲法違反行為を行っている。
同主管部門の違法行為は思想を混乱させ、世論を誤った方向へ導き、国家の安全と安定の脅威となっている。また、「改革・開放」の深化を妨げ、共産党・政府・国家のイメージを悪くさせ、中華民族の長期的利益を損なっている。
関係部門は憲法を無視し、「法の支配」の原則を無視している。法律的手続きを採らず、また、法律の根拠がないにもかかわらず、至る所でブログや中国版ツイッターのアカウントを閉鎖している。
インターネット主管部門は、公安やCCTV等の政府部門やメディアの部門の連携下にあり、そこのトップが法律に取って代わっている。同主管部門のリーダーによってブラックリストが提出され、公安が問題の人間を逮捕する。
近頃発生した「任志強包囲」の類は、インターネットによる“文革式大批判”に似ている。その結果、人々はパニックを引き起こし、当局に対し憤慨している。
中国共産党は18期党大会以降、インターネット主管部門の統治下、ネット世論は大きな圧力を受けている。それは人民の言論の自由に対する重大な侵犯である。
以上の理由により、全人大常務委員会、最高人民法院、最高人民検察院、党中央紀律委員会には、しっかりと調べて欲しいとの要望であった。
ところで、劉雲山 政治局常務委員(「上海閥」)は、かつて党中央宣伝部長を10年間も務め、未だ党中央宣伝部に対し影響力を持つ。恐らく劉雲山は「太子党」の習近平主席に“面従腹背”で接しているに違いない。
表向きは習主席を(毛沢東型)“皇帝”として祭り上げながら、裏では「太子党」を分裂させるよう画策しているのではないか(例:人気ブロガー任志強のアカウント閉鎖によって「習近平・王岐山コンビ」には亀裂が入った)。
同様に、党中央宣伝部も表面的には官製メディアが習主席に対し忠誠を誓うよう指導しながら、裏では党の分裂を図っている可能性を否定できない。そして、人気のない習主席を廃して、李克強首相を担ぎ出す構想を描いているという公算もある。
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