今年3月26日、台湾の中国国民党(以下、国民党)は、党員による党主席補選を行った。そして、立法院副院長を務めた洪秀柱(外省人=1949年、蔣介石政権が中国大陸から台湾へ逃げた際、一緒に渡台した中国人および、その2世、3世、4世)が主席に当選した。国民党に初めての女性主席が誕生したのである(同月28日、新主席に正式就任し、任期は17年8月まで)。
周知のように、去る1月16日、国民党は「W選挙」(総統選挙と立法委員選挙)に大敗したため、朱立倫が党主席を辞任した。
振り返ると、昨年10月17日、国民党の臨時総会が開かれ、総統候補の洪秀柱の代わりに、朱主席が同候補になっている。
その際、朱立倫と洪秀柱の間で“密約”があったと言われる。次期総統選挙で、もし朱が負けたら党主席をおりる。その時には、朱が洪を党主席に強く推薦するという“裏取引”である。
実は、今度の党主席選挙には、4人が立候補した。洪秀柱の最大のライバルは黄敏恵・国民党主席代理(女)だった。「本土派」の黄は、吳敦義・副総統、王金平・前立法院長、郝龍斌・前国民党副主席、蕭萬長・前副総統らの支持を得ていたのである。
結果は、洪秀柱が7万8829票(得票率56.5%)を獲得して当選した。洪は、「黃復興党部」(国民党の退役兵士)の票をまとめあげている。一方、黄敏恵は4万6341票(得票率33.2%)で次点となった(他の泡沫候補2人は、李新が7604票<得票率5.4%>、陳学聖は6784票<得票率4.9%>)。
ちなみに、投票率は41.6%だった。特に、国民党と地盤である基隆市と新竹市では、投票率が30%にも満たなかった。明らかに“国民党離れ”が進んでいる。
本来ならば、今回の主席選挙で、国民党は「本土化」した「台湾国民党」へと脱皮すべきだった。だが、同党は、旧態依然とした発想しか持たない洪秀柱を選出したのである。これでは、国民党の未来は暗い。
それは、1月の総統選挙での若い有権者の投票行動を見れば一目瞭然だろう。
例えば、20代の若者は、約80%が蔡英文候補へ票を投じた。大半の若者は「台湾人意識」(=「台湾人アイデンティティ」)を全面に押し出す民進党(および新政党「時代力量」)に共鳴している。他方、民進党は、一部の国民党員(洪秀柱ら)とは違って、「中台統一」など、微塵も考えていない。民進党同様、多くの若者は、台湾と中国は“別の国”と考えている。
さて、我々がかねてから主張しているように、台湾の若者は、いわゆる「旧メディア」(テレビ・ラジオ・新聞・雑誌)の影響をあまり受けていない(換言すれば、国民党系のマスメディアの「洗脳」から逃れている)。
彼らは「新メディア」であるSNS(Facebook、Twitter、YouTube、Instagram等)へ自由にアクセスし、世界中から情報をキャッチしている。
それどころか、最近、彼らは自らの主張を世界へ発信する。一例を挙げてみよう。台湾のサイト「爆料公社」では、若者が現場記者として写真や文章をアップしている。無論、彼らは素人なので、文章(と写真)に関してやや信憑性に欠ける。しかし、ニュースのスピードや現場の臨場感(リアリティ)は、プロの記者でも舌を巻くはずである。
今後、将来にわたり、この傾向は続くだろう。したがって、国民党が台湾で生き残るためには、若者が何を求めているのか、真剣に考慮すべきだったのではないだろうか。
ところで、国民党主席選挙後、中国の習近平主席は共産党総書記の肩書で、洪秀柱へ祝電を送った。これがなかなかの“クセ玉”である。
国民党は「一中各表」(「一つの中国」だが、大陸側は中華人民共和国を「中国」、台湾側は中華民国を「中国」とする)を掲げてきた。けれども、洪秀柱は「一中同表」(両岸ともに、「一つの中国」の「中国」とは、中華人民共和国である)を支持している。つまり、洪は中国共産党とまったく同じ考え方である。
そこで、習近平主席の洪秀柱への祝電は、「第3次国共合作」(=「中台統一」)を成功させたいというメッセージに違いない。
実際、習主席は馬英九総統とも「第3次国共合作」を模索した。しかし、2014年11月の北京APECが習馬会談の最高の舞台だったのに、何故か習政権は馬英九総統を北京へ招かなかった(遅まきながら、翌15年11月、習主席と馬総統はシンガポールで会談を行っている)。
今後、我が国は、(自民党を含め)いかなる政権といえども、蔡英文政権(および民進党の立法委員)だけでなく、野党・国民党の「本土派」とも連携を求めていけば、中国の“膨張”をある程度、阻止できるのではないだろうか。
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