周知のように、今年1月16日、台湾では総統選挙と立法委員選挙のW選挙が
行われた。同選挙で民進党が国民党等に圧勝した。
そして、5月20日、蔡英文民進党主席がようやく総統に就任した。懸念さ
れていた、中国共産党と国民党の「第3次国共合作」による「中台統一」と
いう“最悪のシナリオ”は避けられた。
今回の政権交代は「第3次政権交代」と言われる。だが、「第1次政権交代
」後の陳水扁政権(2000〜2008年)時、立法院(国会)では民進党は少数与
党で、政権基盤が脆弱だった。
したがって、今度こそ、実質的な「政権交代」と言えよう。
さて、蔡英文新総統は、就任演説の中で、いくつか大事なポイントを挙げ
ている。ここでは、とりあえず2つだけに絞りたい。
第1に、今後、民進党政権は「新南向政策」を採ると宣言した。前馬英九
政権は将来の「中台統一」を見据えて、「中国一辺倒」政策を採っていた。
そのため、台湾は中国に対する貿易依存度が、オーストラリアや韓国と同じ
ように、きわめて大きくなっている。
中国の経済成長が著しい時は、ある程度、台湾はその恩恵を受けていた。
しかし、中国経済の失速(瀕死の状態か?)に伴い、台湾経済も一緒に沈んで
いる。昨15年第3四半期から今年第1四半期まで、3期連続でマイナス成長に
陥った。
今後、台湾は経済的に“リスク分散”が必要なので、東南アジアやインド亜
大陸との関係を強めるだろう。
なお、蔡英文・新総統はTPPへの参加にも言及している。そのためには、
日米の後押しが必要と思われる。
第2に、蔡英文新総統は、就任演説の中で、香港での中台による「92年会談
」には触れた。だが、蔡新総統は、国共間で合意されたとする「92年コンセ
ンサス」(「一中各表」)には一切言及しなかった。
その「コンセンサス」で、中台は共に「一つの中国」を認めたことになっ
ている。ただ、その「一つの中国」については、中国側は中華人民共和国と
し、台湾側は中華民国とする、と“口頭”で確認したという。
けれども、それを裏付ける文書がないので、「コンセンサス」自体の存在
が疑問視されている。国共両党が将来の「中台統一」のため、“でっち上げた
”可能性も否定できない。
蔡新総統の就任演説を受けて、中国共産党が早速、反応した。翌5月21日
付『人民日報』は、以下のように主張する。
過去8年(前馬英九政権の下)「92コンセンサス」を基にして、両岸関係が
発展して来た。台湾海峡両岸は「一つの中国」に属する。決して「一つの中
国、一つの台湾」ではない、と。
更に、『人民日報』は「反国家分裂法」こそが「台湾独立」を阻止するた
めの抑止力だとも指摘している。
2005年、中国共産党は「反国家分裂法」によって、いかなる方式によって
も「台湾独立」は絶対に許さないと規定した。台湾が「独立」を宣言した場
合には、「非平和的方式」(=武力)を使用しても、「台湾独立」を阻止する
という。
言うまでもなく、中国共産党は、大陸で国民党から政権を奪取して以来
、1日たりとも台湾を実効支配していない。中国の主権が台湾へ及んだこと
がないのである。
中国共産党が「反国家分裂法」なる法律を作り、台湾へ適用しようとする
のは、いささか無理があるだろう。
そして、中国共産党は、中台閣僚級会談の停止と中国人観光客の台湾への
渡航制限を発表した。だが、これらの措置が、台湾側にどんなデメリットが
あるのだろうか。
翻って、1979年元旦、米国が中国と国交を樹立した。だが、他方では、カ
ーター政権(基本的に米議会が中心)は「台湾関係法」を作って、台湾の安
全を保障している。
米国は、中国共産党同様、台湾を実効支配していない。それにもかかわら
ず、「台湾関係法」で、(台湾人の生命と財産が脅かされそうになった際)
あらゆる手段を採っても、台湾を守ると台湾側に約束した。
米中のような大国は、台湾をあたかも将棋の手駒のように扱う。米中は、
自国の主権が及んでなくても、勝手に国内法(決して条約等ではない)を成
立させ、当地へ適用しようとする。
ただし、米中の対台湾政策には決定的な違いがある。米国は台湾人民の“民
意”を重視する。反対に、中国は台湾人民の“民意”を完全に無視しても、「中
台統一」を実現しようとする。台湾人民がどちらの国へなびくか、言うまで
もあるまい。
大半の台湾人民が望んでいるのは、最低でも海峡両岸の「現状維持」であ
り、あわよくば、中国共産党のいう「台湾独立」(=具体的には、国名変更と
憲法改正)である。つまり、台湾が多くの大国から国家承認を受け、国連に
復帰(または新加盟)し、国際社会の一員となる事だろう。
|