2016年5月9日付『人民日報』上、「権威人士」(政府中枢要人)が同紙のインタビューに答える形式で、中国経済を診断している。刮目すべき記事である。
その「権威人士」の分析によれば、今の中国経済の「U字回復」は難しい。ましてや、「V字回復」など望むべくもない。この1、2年はおろか、数年は「L字型」状況が続くと言う。この率直な指摘は重要である。
世界第2位の経済大国が、現在、「改革・開放」以来の深刻な不況に見舞われている。それも数年続くという。仮に、この指摘が正しいとしよう。
周知の如く、今年5月26日・27日、伊勢志摩でG7首脳会議(「伊勢志摩サミット」)が開催された。翌28日、安倍晋三総理が「リーマン・ショック級」の経済状況のため、2017年4月に予定されていた消費税率10%導入を、2年半後(2019年10月)へ再延期すると発表した。
伊勢志摩サミットで、安倍首相が、現在、世界は「リーマン・ショック」前と同様なリスクに直面している、と述べた。この表現については“大げさ”だとの批判がある。だが、中国経済がこの調子では、一概に“大げさ”とも言い切れないだろう。日本への影響が決して小さくないからである。
その「権威人士」は、目下、中国は内需不足と過剰生産に見舞われていると指摘する。
特に、(1)民間企業投資の大幅な減少、(2)不動産のバブル化、(3)過剰生産能力問題、(4)銀行の不良債権問題、(5)地方政府の債務問題、(6)株式市場・為替市場・債権市場問題、(7)違法な資金集めをしている「シャドー・バンキング」問題等で、中国経済のリスクが増大していると分析した。
以上の考察は、われわれの基本認識と一致している。
第1に、1990年以来、中国版公定歩合が、今現在、1〜5年モノ貸出金利は(昨15年10月以降)4.75%で最低になっている。2008年9月の「リーマン・ショック」後の利下げ(同年12月の5.40%<当時は1〜3年モノ>)よりも低い。つまり、ここ約四半世紀来、景気が1番悪いという事だろう。したがって、今後、公定歩合の更なる引き下げはあり得るかもしれない。だが、当面の引き上げは考えにくい。
第2に、1989年以降、昨年に至るまで、中国の軍事費は毎年2桁増大した。例外的に、1桁台にとどまったのは、2010年(約9.8%)だけである。この時、胡錦濤政権は(「リーマン・ショック」後の翌2009年3月ではなく)翌々年の3月、軍事予算をも削らざるを得なかった。
2016年は、再び軍事予算が7〜8%と1桁の伸びとなった。今年は、2010年時よりも低く抑えられている。ひょっとしたら、中国経済の状況次第では、来年以降も軍事費が1桁台にとどまるかもしれない。
第3に、よく知られているように、中国の「一国二制度」下にあるマカオはカジノ運営で成り立つ。カジノ収益がマカオのGDPの約60%を占める。マカオは中国人富裕層(党・政府・国有企業高官や大富豪)に依存する。
少なくても2004年以降、マカオ経済は絶好調だった。特に、2004年第2四半期には何と+51.9%成長を記録している。しかし、マカオは、「リーマン・ショック」後の最悪期(09年第2四半期)に、−9.9%成長まで陥った。
マカオではその前後1年間(08年第3四半期から翌09年第2四半期まで)、マイナス成長が続いた。だが、その後、中国経済の回復に伴い、マカオのGDPはプラスへ転じている。
ところが、現在、再びマカオは1年半(連続6四半期)、マイナス成長を続けている。特に、昨15年第1四半期には、−23.7%を記録した。中国高官や中国富裕層がマカオで豪遊できない事情を反映しているのだろう。
第4に、米『Forbes』誌によれば、中国への輸出依存度が高いトップ3は、オーストラリア34%(GDPの約6%)、台湾26%(同約16%)、韓国25%(同約11%)の順となっている。豪州と韓国の景気は必ずしも良くない。だが、両国とも直近のGDPは一応プラスである。
けれども、台湾の場合、昨15年第3四半期から3期連続でマイナス成長が続いている。台湾が豪州・韓国と比べ、GDP比で中国への輸出依存度がきわめて高いからだろう。馬英九前政権が「中国一辺倒」政策を採ったので、中国経済と共に台湾も沈下したと考えられる。
さて、その「権威人士」とは、習近平主席の側近、劉鶴(中央財経指導小組弁公室主任・国家発展改革委員会副主任)だと目される。そして、劉鶴が李克強首相を暗に批判するためにインタビュー記事を発表したと言われているが、定かではない。
ちなみに、1週間後の5月17日、李首相の国務院は、今後、穏やかな経済発展を実現できると『人民日報』に対して反駁している。
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